2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720322
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
大坪 慶之 三重大学, 教育学部, 准教授 (30573290)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 清末 / 政策決定過程 / 垂簾聴政 / 西太后 / 親王 / 軍機大臣 |
Research Abstract |
初年度となる平成24年度は、清末の垂簾聴政下における政策決定のあり方の考察から着手した。これに必要な史料には、公文書に加え、政策決定の中枢にいた官僚の日記、彼らの間で授受された書簡がある。そこで当初の計画にしたがい、「醇親王・軍機処往来書簡」を精査するべく、所蔵先である北京の中国第一歴史档案館を9月に訪れた。この書簡は、2009年に所在を確認していたものの、デジタル化作業のため閲覧できなかったものである。当時の館員の話では、デジタル化は1~2年で完了するとのことであった。しかし、訪問時に確認したところ、現在もデジタル化作業中で、閲覧不可となっていた。そこで北京滞在期間中の計画を変更し、別の図書館・文書館を調査することにした。 調査は、中国人民大学の銭博士の紹介により、中国社会科学院近代史研究所を中心に行った。その結果、当時の朝廷の中枢を構成していた皇族や官僚の手による書簡が、大量に所蔵されていることが判明した。ただ、それらは授受した人物ごとに整理・保存されているものの、日付しか分からないため必ずしも時系列に並んでいるとは言えず、一部の事案に的を絞った閲覧が難しい状況にあった。そこで、まずは同研究所にある書簡の所蔵状況を把握することから始めた。その結果、当時の親王や軍機大臣、及び彼らと李鴻章ら地方官との間で授受された書簡が、少なくとも280冊程度所蔵されていることが確認された。今回の調査では、時間の都合上すべてを把握しきれなかったため、存在をつかめていない史料は、他にも存在するものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、東西の両皇太后が政策の決定権を持ち、親王ら皇族が補佐する垂簾聴政期の清朝中央における政策決定過程のあり方を解明し、その構造と特質を明らかにするという目的のうち、前者から開始した。そこで必要になる史料の一つに朝廷の中枢にいた人物の間で授受された書簡があるが、当初予定していた中国第一歴史档案館が所蔵する「醇親王・軍機処往来書簡」の閲覧が叶わなかった。しかし中国社会科学院近代史研究所にて、新たに別の書簡を発見した。これらの史料は、双方ともに当時の政策決定過程に関わる重要なものであると推察される。そのため、両者を精査し分析することで、垂簾聴政下における政策決定過程のあり方の解明につながる事例研究が可能になると思われる。 この他、大清帝国史研究の成果を取り入れた分析を行うための基礎的作業として、自身がこれまでに発表した論文をもとに当時の政策が決定される「政治空間」についてまとめ、それを18世紀以前の状況と比較検討した。これについては、The Second Congress of Asian Association of World Historians(第二回アジア世界史学会)等で報告を行い、その成果を報告書に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、「醇親王・軍機処往来書簡」が閲覧できなかった場合は台湾の故宮博物院文献館に所蔵されている軍機処に関係する文書の調査に切り替える予定であったが、平成24年度の成果を受け、今年度も引き続き北京での調査を継続する。その成果をふまえ翌年度の調査地を予定通り上海にするか、北京もしくは台湾にするか判断することにしたい。 今後の北京調査では、中国第一歴史档案館に収蔵されている「醇親王・軍機処往来書簡」の閲覧を再度試みると同時に、中国社会科学院近代史研究所に所蔵されている書簡の全体像を把握する必要がある。特に後者では、それらが授受された日付を確定し、歴史事象の中に位置付けていくことが課題となる。その際には、大量の書簡群から家族宛など個人的なものを省き、当時の清朝中央における政策決定に関わるものを抽出していくことが重要になってこよう。また、9月の訪問時に聞いた所員の話によると、一部の書簡は出版にむけて準備が進められているとのことであった。そこで出版状況を確認しつつ、さしあたっては軍機大臣による書簡の内容を精査し、それに関連する資料の収集を進めることにする。なお、前者の閲覧が可能になっていた場合は、その全てが当時の朝廷における政策決定に深く関わるものと推測されるため、そちらを優先する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、長期の海外調査として、夏に北京へ一週間から10日程度出張する。その際には、中国第一歴史档案館での「醇親王・軍機処往来書簡」と並行して、中国社会科学院近代史研究書を再訪し、書簡の調査を継続するとともに、書簡の分析に必要な関連資料を、北京の国家図書館などで収集する。収集にあたっては、複写可能な資料と筆写のみ許可されているものとが存在するので、作業の効率化を図るために原文書に書かれた草書の読解が可能な協力者一名に同行を依頼する予定である。 また昨年度は、閲覧資料を複写するためのデジタルカメラ購入を計画していたが、文書館・図書館での複写規定ならびに設備について十分に把握できていなかった。そのため、どのような機器が必要になるのか、ある程度分かった段階での購入が望ましいと判断し、計画を一年先延ばしにした。本年度は、購入したデジタル機器を携えて調査に臨むことにしたい。
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