2012 Fiscal Year Research-status Report
古代ローマ帝国元首政期における皇帝権力と諸都市との関係についての研究
Project/Area Number |
24720339
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中川 亜希 東京大学, 総合文化研究科, 学術研究員 (80589044)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 古代ローマ / イタリア / 都市 / 皇帝 / 碑文 |
Research Abstract |
本研究の目的は、皇帝と都市との関係性とそれを利用したローマ帝国の支配構造について考察することである。そのため、皇帝の都市への関与を、各都市で発見された碑文史料から分析する。 皇帝の支配による影響を探るため、今年度は、ローマ人の到来が先住の人々の心性にどのような変化をもたらしたのか、さらにキリスト教の広がりによる変化はどのようなものであったのかを考察することを試みた。これまでの研究から、主要な史料となる碑文の残存状況、それから各都市の政治的、社会的、経済的状況などを把握している北イタリアを対象とし、宗教に焦点を当てることで、ローマ人が到来することによる心性の変化、またさらにローマ帝国がキリスト教化することによる心性の変化やキリスト教の受容のあり方について考えた。都市における皇帝の存在について考察する際、ローマ帝国における皇帝礼拝の広がりを考えると、宗教に目を向けることが不可欠であるからだ。 具体的には、北イタリアの重要な都市であったメディオラヌム(現ミラノ)の神域の変化について、現地で文献を収集し、遺跡調査を行った。ギリシア人の歴史家ポリュビオスの記述などによると、メディオラヌムを建設したとされる先住のケルト人が信仰し、ローマとの戦争の際に頼った女神の神殿が、メディオラヌムに存在したこと、その神殿がローマ人の到来とともにローマの女神ミネルウァの神殿になったことが推測される。さらに、その女神ミネルウァの神殿は、ローマ帝国のキリスト教化により東方の聖女テクラに捧げられた聖堂になったと考えられる。史料が少ない中で以上のような変化を確認し、その意味について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、イタリアとフランスにあたる地域の碑文について調査する予定であった。しかしそのために改めて碑文を見直してみると、皇帝の支配が及ぼした影響について、より深く調査することが必要だと分かったため、北イタリアについて新たな視点で調査し直した。
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Strategy for Future Research Activity |
近年、ローマ帝国内では共同体によって宗教の形態が多様であったにもかかわらず、その目指すところは、帝国とその中にある各都市の安全を保証する皇帝のため、その様々な神々に礼拝することであったことが指摘されている。そこで今後は、さらに地理的範囲を広げ、引き続き宗教という視点から皇帝と都市との関わりについて調査を行い、分析対象となる事例を増やす予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
碑文に関する研究では、実物を見ることが不可欠である。更に、写真や詳細なデータが記載されている都市ごとの碑文集や博物館のカタログなど、碑文そのものに関する文献、そして地方都市の歴史やプロソポグラフィに関する文献を、日本において入手することは非常に困難である。したがって碑文史料についての情報を集めるため、イタリアやフランスの各都市の研究機関、博物館を利用する。また碑文という専門的知識を必要とする史料を扱わなくてはならないので、碑文学者であるミラノ大学のAntonio Sartori氏、そしてボローニャ大学のAngela Donati氏の助言を得つつ、研究を行う予定である。さらに聖域の現地調査も不可欠である。イタリアでの現地調査と文献収集のために研究費を使用する。
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