2015 Fiscal Year Research-status Report
古代ローマ帝国元首政期における皇帝権力と諸都市との関係についての研究
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24720339
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中川 亜希 東京大学, 総合文化研究科, 学術研究員 (80589044)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 古代ローマ / イタリア / 都市 / 碑文 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、皇帝と都市との関係性とそれを利用したローマ帝国の支配構造について考察することである。文献史料や各都市で発見された碑文史料などから分析する。 ローマの支配による影響を探るため、ローマ到来がイタリアの先住の人々の心性にもたらした変化について考察することを試みている。現在は、中部イタリア、ローマ近郊のプラエネステ(現パレストリーナ)の女神フォルトゥーナ・プリミゲニアの神域に着目し、研究を進めている。この神域には、ローマ世界西方で最大の、そして恐らく唯一とも言えるであろう超域的な神託所があったことで知られている。 従来は、神託の女神の神域としての、地中海世界における重要性と影響力については当然のこととされてきたが、近年、疑問が示され、神託の女神としての重要性と影響力が否定されるようになった。そこで史料を検討し直し、ローマにおける女神フォルトゥーナ・プリミゲニアの分祀について改めて分析することで、女神の重要性と影響力について考察した。その結果、フォルトゥーナ・プリミゲニアは、ハンニバルとの戦争での勝利をローマにもたらした幸運の女神として正式にローマに導入されたが、神託の女神としての面は排除されたと推測されることが明らかになった。その背景として、ローマの支配下にあるにもかかわらず、故郷の象徴である女神とその神域を誇示するプラエネステの人々に対して、ローマ人が快く思っていなかったことが考えられる。ローマは無数の共同体を征服していく際に、その神々を、ローマの神々と同一視する場合も、そのまま国家祭儀に導入する場合もあった。あるいはローマには受け入れられず、神々が消滅する場合も、私的に信仰を集めて生き残る場合もあった。ローマがそれら共同体の神々とその神域をどう扱ったのかを調査することで、ローマとその共同体との関係性が明らかになる可能性を指摘し、論文としてまとめる作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初はイタリアとフランスにあたる地域の碑文について調査する予定であった。しかしそのために改めて碑文を見直してみると、イタリアに関して検討すべきことがまだあることが分かったため、新たな視点で研究を進めることにした。
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Strategy for Future Research Activity |
近年、ローマ帝国内では共同体によって宗教の様相が多様であったにもかかわらず、その目指すところは、帝国と帝国内の各都市の安寧を保証する皇帝のため、その様々な神々を礼拝することであったと論じられている。そこで今年度も引き続き宗教という視点から皇帝と都市との関わりとローマの支配について研究する予定である。
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Causes of Carryover |
イタリアで文献収集と研究者との意見交換を行う予定であったが、国際情勢の悪化により取り止めたから。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
日本では入手できない文献の収集のため、イタリアの図書館と博物館などを訪問する。
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