2012 Fiscal Year Research-status Report
近現代中国憲法における「市民」の概念的・実態的検討
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24730019
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
石塚 迅 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (00434233)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 公法学 / 基礎法学 / 中国 / 憲法 / 市民 / 政治的権利 / 情報公開 / 請願 |
Research Abstract |
本研究は、近現代中国憲法における「市民」について、概念面と実態面から解析する研究の試みである。 研究初年度である2012年度は、6月に中国北京市を、11月に台湾台北市をそれぞれ訪問し、国家図書館、大学図書館等において資料およびデータ(図書、雑誌、新聞、法律法規、裁判例、電磁的記録等)を収集し、現地の憲法・人権法研究者にインタビューを実施した。それら資料・データの収集、インタビューの実施を通じて、近現代中国憲法における権利・主権の享有主体たる臣民・国民・人民・公民等の諸概念の変遷・特質について理解を深め、今日の中国・台湾における「市民」の創出・生成状況について実証的に調査する手がかりを得た。 2012年7月に公表した小論「政治的権利論からみた陳情」(毛里和子・松戸庸子編著『陳情―中国社会の底辺から―』(東方書店)所収)では、「信訪」と呼ばれる中国特有の陳情・請願制度について比較憲法的視点から考察した。すなわち、監督権およびその前身の請願権と信訪との関係から信訪の憲法的権利性を明らかにし、信訪と他の政治的権利(言論の自由)との関係から民主政における政治的権利の意義を再考し、それらを通じて、信訪の政治参加・公権力監督の機能の可能性を展望した。また、2012年11月に公表した小論「岐路に立つ憲政主張」(『現代中国研究』第31号)では、立憲主義と民主主義との関係をとりあげた。すなわち、中国の現行憲法体制と「憲政」(立憲主義)との距離を確認した上で、現行憲法の改正の主張か現行憲法を前提とした制度改革の構想か、「民主」に重きをおくか「憲政」に重きをおくか、憲法学者の使命は積極的な社会変革・啓蒙への関与か憲法研究水準の向上かをめぐり、中国憲法学界に分岐が生じていることを指摘し、あわせて中国における憲政主張の課題を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①近現代中国憲法における臣民・国民・人民・公民等の諸概念の変遷・特質と②今日の中国・台湾における「市民」の創出・生成状況とを明らかにすることが本研究の課題である。本研究の目的に到達するために、2012年度を主として「市民」の概念的研究の年に、2013年度を主として「市民」の実態的研究の年に、2014年度を2年間の研究で得られた知見の統括的分析、理論枠組みの構築および成果の公表の年にそれぞれあてて、3年間で研究の完成を目指している。 2012年度の研究の主たる目的であった「近現代中国憲法における権利・主権の享有主体たる諸概念について、正確な理解を得ること」については、二度にわたる訪中(訪台)における現地での資料およびデータ(図書、雑誌、新聞、法律法規、裁判例、電磁的記録等)の収集・解析、現地の憲法・人権法研究者へのインタビューの実施を通じて、目的の到達に近づきつつある。ただし、憲法理論の継受、憲法用語の翻訳をめぐる問題等に関しては、なお検討は未着手である。また、現在、中国のメディア・民間のレベルにおいて、盛んに提唱されている「公民社会」という用語・概念が、西欧の「市民社会」とどのような理論的関係に立つのか、についてもよりいっそうの考察が必要である。 「今日の中国・台湾における「市民」の創出・生成状況」については、2013年度以降の研究の主たる目的であるが、理論的研究を進める中で、すでにそれを実証的に調査する手がかりを得つつある。具体的には、情報公開請求と請願(信訪)であるが、とりわけ請願(信訪)については、小論「政治的権利論からみた陳情」の執筆を通じて、その概念・理論についての理解を深めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方法については、特段の奇策があるわけではなく、文献・資料・法令・裁判例の収集および解読、中国・台湾の立法・行政・司法機関の訪問調査、中国・台湾の憲法・人権法研究者や弁護士との研究交流等を通じて研究を地道に推進する。ただし、いくつかの工夫が必要である。 第一に、学際的な共同研究の重視である。清朝や中華民国の憲法思想・憲法理論については、歴史学(政治史)の研究分野においてすでにかなりの研究蓄積が存在する。研究代表者は先行研究の段階からすでにフォーマル・インフォーマルな形で歴史学研究者・政治学研究者との共同研究を展開してきているが、引き続きそれらを維持し発展させていき、本研究の推進にあたり有益な知見を獲得したい。また、西欧法や社会主義法の継受については、憲法学・社会主義法学の先行研究を検討し、最新の研究を把握することが重要となる。憲法学者・社会主義法学者と研究交流を深め、よりいっそう、憲法学や社会主義法学の理解にも努めたい。 第二に、現地研究者との緊密な連携である。2013年度は「市民」の実態的研究に研究の力点がおかれる。情報公開や請願(信訪)の実態を考察するにあたっては、文献研究にとどまらず、現地(主として中国、台湾)の憲法・人権法研究者や弁護士との研究交流や立法・行政・司法機関の訪問調査が重要となる。現地の研究協力者とは経常的に連絡を取りあっており、現時点で意思疎通に不安を抱いていない。 鳥インフルエンザおよびPM2.5の問題が、現地調査にあたっては気がかりであるが、日本政府および関係機関が発表する情報に注意しつつ、必要に応じて、調査・訪問先を変更する等の対応を考えたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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