2013 Fiscal Year Research-status Report
近現代中国憲法における「市民」の概念的・実態的検討
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24730019
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
石塚 迅 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (00434233)
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Keywords | 公法学 / 基礎法学 / 中国 / 憲法 / 市民 / 政治的権利 / 情報公開 / 請願 |
Research Abstract |
本研究は、近現代中国憲法における「市民」について、概念面と実態面から解析する研究の試みである。 研究2年目の2013年度は、その上半期を研究成果の公表にあてた。すなわち、2012年度に得られた資料およびデータに基づき、近現代中国憲法における「市民」について、主としてその理論面に関する研究論文を執筆した。2013年7月に公表した小論「中国憲法の改正、解釈、変遷」(北川秀樹・石塚迅・三村光弘・廣江倫子編『現代中国法の発展と変容―西村幸次郎先生古稀記念論文集―』(成文堂)所収)では、近年の中国の憲法学界において、憲法改正ではなく憲法解釈によって、中国憲法を立憲主義的意味の憲法に近づけていこうとする知的営為がみられる点に注目し、a)こうした理論的試みが生じている背景、b)憲法解釈の具体的展開の如何、c)憲法解釈による中国憲法の変容可能性について、順次検討を加えることで、現時点における近代立憲主義と中国憲法との「距離」を考察した。 こうした研究論文の執筆・公表と並行して、2012年度の資料・データの収集の作業において、不足している部分、新たに必要とされることが明らかになった部分について、収集の作業を継続するとともに、近現代中国憲法における「市民」について、その実態面の観察へと研究の軸足を移した。2013年6月に中国(湖南省長沙市・北京市)を、9月に台湾(台北市)をそれぞれ訪問した。大学図書館、国家図書館における資料およびデータ(図書、雑誌、新聞、法律法規、案例、電磁的記録等)の収集、現地の憲法・人権法研究者との意見交換、大学における憲法授業の見学等を通じて、中国・台湾における行政と市民との協働と緊張、市民(とりわけ、大学生)の憲法意識・公民意識の現状について理解を深め、今後の研究の課題を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①近現代中国憲法における臣民・国民・人民・公民等の諸概念の変遷・特質と②今日の中国・台湾における「市民」の創出・生成状況とを明らかにすることが本研究の課題である。本研究の目的に到達するために、2012年度を主として「市民」の概念的研究の年に、2013年度を主として「市民」の実態的研究の年に、2014年度を2年間の研究で得られた知見の統括的分析、理論枠組みの構築および成果の公表の年にそれぞれあてて、3年間で研究の完成を目指している。 2013年度は、「近現代中国憲法における権利・主権の享有主体たる諸概念について、その理解を深化させること」および「今日の中国・台湾における「市民」の創出・生成状況を観察すること」を研究の主たる目的として掲げていた。二度にわたる訪中(訪台)における現地での資料およびデータ(図書、雑誌、新聞、法律法規、裁判例、電磁的記録等)の収集・解析、現地の憲法・人権法研究者へのインタビューの実施を通じて、前者の目的については、さらに一定程度進展させることができ、また、後者の目的についても、概念的・理論的研究を進める中で、「行政改革」と「憲法教育」という、実証的研究に切り込んでいく複数の手がかりを得ることができた。すでに、「行政改革」、「憲法教育」については、資料およびデータ、インタビューを整理し、研究成果をまとめる準備に入っている。また、情報公開請求と請願(信訪)についても引き続き検討を進めている。 中国におけるメディア弾圧、中国における「新公民運動」の高揚と限界、台湾における学生による立法院占拠事件等々、中国・台湾における「市民」をめぐる政治状況は、リアルタイムで変転めまぐるしい。現状の正確な把握・分析に努めるとともに、冷静な学術的研究も必要である。冷静な学術的研究が、現状の正確な把握・分析に資することになるからである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方法については、特段の奇策があるわけではなく、文献・資料・法令・裁判例の収集および解読、中国・台湾の立法・行政・司法機関の訪問調査、中国・台湾の憲法・人権法研究者や弁護士との研究交流等を通じて研究を地道に推進する。ただし、いくつかの工夫が必要である。 第一に、学際的な共同研究のいっそうの重視である。今年度は、「近現代中国における代議制」、「近現代中国における検察」といった本研究のテーマと密接に関連するテーマの共同の研究会(ワークショップ)が予定されており、研究代表者もこれらに参加する。これらの共同研究の推進を通じて、清朝・中華民国・中華人民共和国の憲政・法治の歴史・現状・課題について有益な知見を獲得したい。また、日本においても、昨今「市民とは何か」があらためて問われているが、憲法学者との研究交流も深め、西欧・日本と中国との「市民」の異同を省察し、よりいっそう「市民」概念の憲法的理解の深化に努めたい。 第二に、現地研究者との緊密な連携である。2013年度の研究は「市民」の実態的研究に研究の力点がおかれたが、情報公開、請願(信訪)、行政改革、憲法教育の現状を考察するにあたっては、現地(主として中国、台湾)の憲法・人権法研究者や弁護士との研究交流が不可欠であった。実証的研究は2014年度も継続・拡充する予定である。引き続き、現地の研究協力者と経常的に連絡を取りあい、意思疎通に努めたい。 中国大陸での調査にあたっては、鳥インフルエンザおよびPM2.5の問題がなお気がかりである。また、ウィグル過激派のテロも増えつつある。日本政府および関係機関が発表する情報に注意しつつ、必要に応じて、調査・訪問先を変更する等の対応を考えたい。 以上のような工夫を通じて研究を推進し、口頭および論文・著作での積極的な成果発信を考えたい。
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