2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730207
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 和博 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (10362633)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 人口密度 / 集積 / 出生率 / イノベーション |
Research Abstract |
平成24年度には、経済活動の集積と、内生的出生率に関する研究を行なった。経済活動が集積している都市圏においては、出生率が低くなることが日本、及び世界のデータにおいて示されている。日本においては、東京や大阪等の都市圏においては出生率が低く、沖縄、岩手県等人口密度が低い県では出生率が高い。また、国際的に見ても、日本、韓国、シンガポール、台湾等、人口密度の高い国の出生率は低くなる傾向が見られる。本研究においては、人口密度の高い場所においては市場規模が大きく、大きな市場が企業の集積を促すこと。そして企業が集積している場所においては、多様な財が輸送費用無しで手に入るため、名目所得の価値が高まり、子供を作ることの機会費用が高まることを示した。子供を作ることの機会費用が高まることによって、人口規模が大きく、企業が集積している都市圏においては出生率が低下するのである。都市圏における出生率低下の新しい要因を示した本論文は、応用地域学会の招待講演において報告された。 平成24年度には、人口密度と産業集積、及び経済成長に関する研究も行なった。本研究においては、イノベーションが経済成長のエンジンとなる理論モデルを構築することにより、研究を行なった。人口密度が高い都市圏では、労働者の通勤費用が低下し、名目所得が高くなる。また、通勤時間の低下によって実質労働供給も増加する。このことにより、人口密度の高い都市圏には多くの企業が集積する傾向がある。また、このような都市圏においては、経済成長率も高くなる。従来の研究においては人口の絶対数が重視され、人口密度の影響は軽視されて来たが、本研究は、人口密度の役割を明示的に分析した初めての理論的研究である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度には、大きく分けて二つの研究テーマで、4本の論文を執筆することに成功した。特に、人口密度と産業集積、経済成長に関する研究テーマでは、今後も複数本の論文を執筆する見込みである。 出生率と人口密度、産業集積に関する研究は、論文の完成度も非常に高く、平成24年度応用地域学会における招待講演において、報告する機会を得た。そこでの反応も非常に良く、多くの有益な議論をすることが出来た。それを踏まえ、出生率の低下の重要な要因の一つが都市圏における人口の集中と産業集積にあることが確認され、今後の理論研究とともに、実証研究にも進める目処がついた事は大きな研究成果である。先進国における出生率の低下は、世界的にも注目される重要な研究テーマでありながら、国レベルでの分析が多く、地域レベルで分析が余り行われてこなかった。しかし、本研究により、出生率の地域的な分析の重要性が明らかになり、今後の研究成果が期待される。 人口密度と産業集積、経済成長に関する研究は、まだ出発点である。論文3本の執筆が行われているが、高い人口密度が意味する経済的な影響に関しては、まだまだ多くの分析が必要である。これまでのところ、通勤費用の低下による市場規模の拡大と、実質労働供給量の増加が発生することを明確にしたことが研究成果である。市場規模の拡大と実質労働供給の増加は、共に集積、成長のエンジンとなっている。すなわち、従来軽視されて来た高い人口密度が集積と経済成長の基盤となっている事を本研究は明らかにしたのである。 このような研究成果を複数の論文にまとめ、執筆することが出来たという意味で、平成24年度は、当初研究計画以上の研究成果を上げることが出来たということが出来る。
|
Strategy for Future Research Activity |
出生率と人口密度、産業集積に関する研究においては、データの蓄積、整備が求められる。完成度の高い理論モデルが構築されているので、今後は実証研究を行う方針である。特に、日本の市町村、及び県別の出生率のデータを分析することにより、理論モデルの妥当性に関する実証研究を行う予定である。また、日本のデータによる分析が完成を見たのちには、国別のデータによる分析を行う。理論モデルは、人口密度が高い国の出生率が低下し、人口密度が低い国の出生率が高い事を示している。多くのデータはこの結果をサポートしているように見えるが、この結果の妥当性に関する実証研究は多いとは言えない。今後は、このような実証研究も行なうことにより、出生率と人口密度、産業集積に関する研究を発展させて行く予定である。 人口密度と産業集積、経済成長に関する研究は、今後も理論的研究を続けていく方針である。これまでの研究により、高い人口密度が、大きな市場、豊富な実質労働供給をもたらす事が示されている。これらが、産業集積、経済成長を促進する要因となることが示されているが、今後は人口の年齢構造が、人口密度、及び経済成長に及ぼす影響に関する分析を行なっていく。人口が高齢化し、労働供給が低下すると、経済成長と人口密度には大きな影響を及ぼす。特に、今後の日本では、人口の年齢構造が大きく変化することが予想され、それが経済成長、土地市場に及ぼす影響を分析することは非常に重要である。経済成長がイノベーションによって推進されるモデルを構築することにより、人口の年齢構造の変化の影響を分析する予定であるが、その際、人口密度の変化と、それによる土地市場への影響、そして経済成長への影響を探求する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。具体的には、ソフトウェアを購入する予定である。出生率と人口密度、産業集積に関する実証研究を行うにあたり、ソフトウェアを導入する。新たなソフトウェアによって大規模なデータを効率よく整理し、加工することが可能になる。 加えて人口の歴史的な変遷をたどったデータを購入する予定である。歴史人口学等の研究成果により、人口データは増加傾向にある。人口密度のデータと照らし合わせることにより、理論モデルの現実妥当性を探る。出生率の研究は、豊富なデータとの妥当性を検証することが非常に重要である。また、現実を説明する理論モデルの候補も非常に多い。従って、データを入手し、加工して理論モデルを検証することが研究の価値を大きく左右する。その際、ソフトウェアを利用することによって効率的にデータ加工を行い、実証研究、及び数値計算を行なって行く。 さらに、次年度研究費により、学会での討論及び、報告を行う際の旅費、交通費を支給する予定である。6月、9月に開催される日本経済学会に加えて、12月の応用地域学会、さらに7月に開催が予定されているAsia Pacific Trade Seminars、11月のRegional Science Association International, North American Meeting等、報告、または討論予定の学会が多く控えている。これらの学会に出席し、討論を行う事で研究を発展させ、またそのプレゼンスを高めることは非常に重要な研究プロセスである。このような学会に積極的に出席して本研究を報告し、討論の成果を吸収して将来の新たな研究成果へとつなげて行く計画である。
|
Research Products
(4 results)