2014 Fiscal Year Research-status Report
経済連携・統合によるスピルオーバー効果の実証分析ー欧州と東アジアの比較ー
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24730242
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
土井 康裕 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (70508522)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 経済統合 / アセアン / EU / 労働移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、経済統合地域の労働移動の特徴や経済成長への効果について研究を進め、特にEUの経験を基にアセアン地域での労働移動の促進要素と阻害要因の解明を目標とした。 ASEANに加盟する10か国は、経済統合を念頭に置いたASEAN Economic Community(AEC)を2015年に開始すると公表している。AECの工程表となるBlueprint(2007)に記されている4つの柱の一つは「単一市場と生産基地」である。「単一市場と生産基地」の中でさらに細分化された項目の一つに(A5)”Free flow of skilled labour”「高い技術を持った労働者の自由移動」がある。ここでは、財・サービス、さらに投資が自由に国境を超えることを認めるため、それに従事する労働の移動を促進すべきえあることが謳われている。この項目において注目すべきは、”Free flow of labour”、つまり「全ての労働者の自由移動」ではなく、”skilled labour”高い技術を持った労働者のみの移動を明示している点である。この”skilled labour”を企業目線で考えると、これは高い技術を持ったエンジニアや経験を積んだマネジメントクラスの人材を指すと考えられる。 本研究では、AECによって進められるASEANの市場統合、特に労働市場の統合とその効果に着目し分析を進めた。ここでは、経済統合理論やEUの経験を踏まえ、AECによる労働市場の統合がどのような効果・影響を及ぼすのかを予測し、企業の人事戦略がどのように変化するのか分析することを目的とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、政策的に進む生産要素の国際移動自由化とそのスピルオーバー効果に焦点を当て、経済の国際化がどのような効果を起こしているのかについて実証分析を進めている。特に、経済統合すでに進んでいるヨーロッパと、経済成長が著しい東南アジアを分析対象として比較研究を進めている。 ヨーロッパの分析に関しては、生産要素を背景とした産業構造変化の分析を進めており、平成27年度中に学会報告や論文の発表を計画している。ここでは、新古典派のH-O-Vモデルを基本とした実証分析を展開し、生産要素の移動と産業構造や経済成長への効果について研究を進めている。 また、平成26年度に力を入れた東南アジアの経済統合に関する研究も順調に進んでいる。特に、平成27年(2015年)にASEAN Economic Community(AEC)が発足し、経済統合が政治的に促進される中で、生産要素、特に労働移動がどのような影響を受けるか研究を進めている。これまでの研究では、理論的な枠組みとして政府と労働者の関係が中心となっていたが、今回の研究では企業の目線も加えることで労働移動の可能性を図ることを目的としている。 上記の内容は、最終的にヨーロッパと東アジアの比較分析を行い、経済統合や生産要素市場の国際移動自由化によるスピルオーバー効果とそれにともなう経済全体のメカニズム変化について、結論を導き出す目的に合致していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、経済統合による生産要素移動の中でも最も複雑でその効果が分かりにくい分野が労働移動だと考えている。労働移動の地涌化については、理論的にも実証的に多くの研究が存在し、多くの議論が進んでいるものの、不足も多々見受けらえる。特に、経済学的な視点で分析を進めた場合、労働移動の制度や労働者の費用については多くの議論があるが、それを受け入れる企業側の考え方や経済統合への対応についてはあまり研究が進んでいない。つまり、国際的な市場の枠組みが変化することは企業の戦略や組織、人事関係にも大きな影響を及ぼすと考えられる。例えば、国際的な生産要素移動の自由化は、国際的な(Multi-national)企業にとって、より効率的な生産活動を実現させるため、生産拠点の立地、完成品や部品の物流、賃金構成や人材育成に関してもこれまでの枠組みを超えた議論を必要とする。本研究は、経済学で進められてきた経済統合に関する研究を背景とし、経済統合によって変化する市場の中で活動している企業がどのように考えているのかについても焦点を当てた研究を進めたいと考えている。 また、経済統合に関する理論的な研究を進め、生産要素と財の移動が各国の生産要素市場や産業構造にどのような効果を与えるのか研究を進めたいと考えている。これまでの分析結果を土台とし、本研究をさらに進めるべく、これまでの経済学に加えて企業の視点で経済統合の影響を分析することができる理論的な研究や、EUの現状やAECの今後の展開についてさらに対象を拡大した実証分析を進める。
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