2012 Fiscal Year Research-status Report
婚資が女性の家庭内交渉力・子女への人的投資に与える影響の実証分析
Project/Area Number |
24730261
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
牧野 百恵 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (50450531)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 婚資 / ダウリー / 家庭内資源配分 / 子女教育 / 家族の経済学 / 南アジア / パキスタン |
Research Abstract |
本研究の目的は、南アジアにおいて花嫁の親が支払う婚資(ダウリー)が家庭内資源配分、具体的には女性の意思決定権、子女の教育などに与える影響を実証分析によって明らかにし、政策的含意を導くことである。婚資は、南アジアに共通してみられる慣習であり、花嫁への暴力や殺害につながるなど、メディアではしばしばセンセーショナルに取り上げられている。また、婚資の存在は、潜在的に女児の栄養失調、間引き、中絶、低い教育水準など、家庭における女子の不平等な扱いにつながるといった議論もある。婚資は法律で禁止(インド、バングラデシュ)ないしは制限(パキスタン)されているが、実際は形骸化している。婚資については、社会学、人類学的な研究が蓄積されてきたが、データの不備もあり、その影響は経済学的に十分に実証されたとはいえない。本研究では、婚資がもたらす影響を明らかにし、仮にそのような負の影響が事実であるならば、現行の禁止法が機能していないのはなぜか、どのような政策が有効であるのか、という政策議論に実証的基礎を提供する。 平成24年度は、平成25年度実施予定のパキスタン家計調査に先行し、調査地選定および調査票作成のためのパイロット調査をパキスタン・パンジャーブ州で実施した。南アジアのなかでも、パキスタンのデータを用いた婚資に関する実証研究は不足している一方、パキスタンは女性の社会進出や、男性に比した社会経済的指標が南アジアで最も遅れていることから、パキスタンで家計調査を実施し婚資の影響に関する実証研究を行う意義は非常に大きい。パイロット調査では、事前には分からなかった結婚にまつわる慣習などが判明し、クオリティの高い調査票を作成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、平成25年度実施予定のパキスタン家計調査に先行し、調査地選定および調査票作成のためのパイロット調査をパキスタン・パンジャーブ州で実施した。パイロット調査では、事前には分からなかった結婚にまつわる慣習などが判明し、クオリティの高い調査票を作成することができた。 例えばイスラーム婚は契約なので、契約書が存在するというのは先行研究どおりであったが、イスラーム婚に存在する婚資(ブライド・プライス)の額が契約書に実際に記載されていることは稀であった。また、離婚経験者がダウリーの額を下げるという価格説に反する例もみられた。さらに、ダウリーと先行研究で称されているものには、花嫁側から花婿側への移転、花嫁の親から花嫁への移転、セレモニーに関する出費と、実際には多様であることも判明し、調査票の質問項目を出費ごとに詳細にするよう工夫することが可能となった。調査票は、当初思っていた以上のクオリティに仕上がったと評価する。 一方で、調査地の選定は当初計画していたよりは少々劣る内容となった。パンジャーブ州広域にわたってディストリクトを抽出するという調査地選定方式の転換は改善点といえるが、予算の関係からクラスター(村)数は25となった。村ごとの母集団は選挙人名簿により全戸数を把握することが可能であった。層化抽出を行うための母集団の分類については、各村の有力者の協力を得ることができた。 以上のように、調査票(+)と調査地選定(-)でプラスマイナスゼロとして、総じておおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究実施計画 平成24年度の作業(パイロット調査に基づいた、調査地・調査票)をもとに、家計調査を実施する。実施に際しては、調査員の教育を行う。総数600世帯の調査を計画している。上半期に家計調査を実施・完了し、下半期にデータクリーニングを行う。暫定的な実証分析を行い、応募者がこれまでに行った二次データを用いた実証分析結果と比較する。 平成26年度の研究実施計画 上半期は、実証分析を行い、論文執筆作業を行う。必要に応じて、先行研究のレビューを再度行う。下半期は、学会発表、学術雑誌への投稿準備に充てる。学会発表や他研究者との意見交換を通じて、政策提言をまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
パキスタン・パンジャーブ州農村で600世帯の家計調査を実施する。家計調査はパンジャーブ州を代表するようなサンプリングにする必要から、全域(日本の本州の9割ほどの面積)をカバーする大規模な調査である。本家計調査は、パキスタン・パンジャーブ州の研究協力者への委託調査を予定している。
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