2013 Fiscal Year Research-status Report
監査人の独立性と利益調整行動との関係についての実証研究
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24730386
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
笠井 直樹 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (80584143)
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Keywords | 財務諸表監査 / 監査人の独立性 / 利益調整 / 監査報酬 / 監査人の継続監査年数 |
Research Abstract |
本年度はまず,昨年度に収集したデータを整理したうえで,これまでに実施した分析や先行研究を検討した結果から,ゴーイング・コンサーンの開示など分析モデルに追加すべきであると判断した複数のデータを新たに収集した。 このようにして得られたデータをもとに,経営者による会計的裁量行動および実体的裁量行動を捉えると想定される指標の計算を行い,これら2つの指標と監査報酬・継続監査年数といった監査人の特性を捉える変数との関係について分析を行った。分析の結果,実体的裁量行動については分析モデルの改善が必要であったため分析の再実施が必要となったが,会計的裁量行動については概ね先行研究と同様に監査報酬および継続監査年数といった指標との関連性が示唆された。またこれ以外に,損益項目の分類変更に関する指標については,指標の推定に用いる変数の定義について改めて検討すべきであると判断し,他の2つの指標および監査人の特性との関係については分析モデルを修正したうえで,再度分析を実施することとした。 他にも,現時点で実行可能な分析を随時進めるとともに,関連する分析として,企業の株式所有構造などの企業固有の要因が,経営者の利益調整行動と監査人の行動に与える影響について検証を行った。分析の結果,これらの要因が経営者による利益調整行動を抑制し,監査人の行動にも影響を及ぼしていることが明らかとなった。 現時点で得られた成果は,European Accounting AssociationおよびInternational Symposium on Audit Research,American Accounting Associationの年次大会において報告し,有益なコメントを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでのところ,本年度の目標である主たる分析,すなわち,経営者による利益調整行動を代理する指標と監査人の特性を捉える指標との関係を検証する作業は順調に進んでおり,分析結果として概ね予想通りの成果を得られたと判断している。また,これ以外にも,株式所有構造や資金調達関係などの企業固有の要因をコントロールした追加的な分析も併せて実施しており,一定の成果を得ている。当該成果は,本研究のメインテーマである利益調整行動と監査人の行動との関係という議論により厚みを持たすための一助となることが予想される。 また,研究成果の公表という点では,国際学会での報告を通じて多様なオーディエンスとのやり取りから,本研究の問題点および改善点を改めて理解するとともに,本研究の国際的価値を認識することができた。さらに,本年度中に得られた成果をまとめ論文として複数の学術雑誌に投稿する準備を進めており,一部はすでに本年度中に投稿を行った。 このように,概ね当初の研究計画通りに進んでおり,研究成果の公表も随時行っていることから,本研究は順調に進展していると判断した。これまで順調に進展できた理由としては,国内での研究会や研究セミナーなどに積極的に参加し,同じ専攻分野の研究者と活発な議論を行えたことが大きいと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず,これまでの学会報告およびセミナー報告などから得られた意見を参考に論文をブラッシュアップすることから取り組み,併せて随時学会報告を行うとともに,論文を学術雑誌に投稿することを最終目標とする。 具体的には,まず,これまでに推定してきた利益調整の指標のうち,実体的裁量行動を捉える指標と損益項目の分類変更に関する指標について重点的に検討を行い,これらと監査報酬や継続監査年数などの監査人の特性を代理する指標間との関係を検証する。 さらに,複数の利益調整の手法を監査人がどのように識別し,それを抑制しているのか,あるいは識別できない(抑制しない)のかという論点を明らかにし,コーポレート・ガバナンスなどの要因がこれらにどの様な影響を及ぼしているのかについて分析を進めていく。しかしながら,経営者による複数の利益調整手法を監査人がどのように識別・抑制しているのかを実証的に明らかにするのはなかなか難しい論点である。そこで,特定の事象(カネボウ・中央青山事件など)に絞って経営者および監査人の行動の実態を明らかにするというアプローチを取ることが有用であると考えられる。今後は利用する指標の改善も含め,分析対象サンプルについてもより詳細な検討を行うことにする。また,引き続き国内での研究会や研究セミナーなどに積極的に参加し,同じ専攻分野の研究者と意見交換することで分析に関する助言を得る機会を確保する。
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