2013 Fiscal Year Research-status Report
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24740169
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福嶋 健二 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60456754)
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Keywords | クォーク物質 / 量子色力学 / 相転移 / 非一様凝縮相 / 強磁場 / ホログラフィック模型 |
Research Abstract |
本年度は高温物質中あるいは強磁場中のクォーク物質の非摂動的な性質について、様々な理論手法を用いて研究を推進した。グルーオンの閉じ込め有効理論であるGribov-Zwanziger形式を利用してグルーオン伝搬関数およびゴースト伝搬関数を自己無撞着に計算し、圧力やエントロピーなど熱力学量を構成した。その結果、閉じ込めの非摂動的効果が残っている磁気的(横波)グルーオンの赤外の性質が改善され、格子QCDシミュレーションで得られている数値計算とコンシステントな結果を得た。従来、Hard Thermal Resummationなどの再和法では、赤外スケールの選び方等に理論の不定性が大きく残っていたが、我々の方法では不定性が小さくなることが示された。 また並行して、ホログラフィックQCD模型を使って、トポロジー的カレントと磁場が相図に及ぼす影響を調べた。磁場が強くなるとランダウ軌道量子化のため、フェルミオン系は有効的に1次元の理論に帰着する。すると空間的変動に対する不安定性が強くなり、クォーク凝縮の非一様構造が発現すると考えられている。従って中性子星内部のような極限環境下では、非一様構造を持ったクォーク物質が存在するのではないかと期待されている。これはかつてパイ中間子凝縮相と呼ばれていた可能性に類似したものだが、パイ中間子凝縮相の存在は、スピン・アイソスピン相互作用の効果により(ほぼ)否定された。クォーク物質でも同様の物理的機構があるはずだが、従来、全く研究されてこなかった。そこで我々は、スピン・アイソスピン相互作用がちょうど軸性ベクトル相互作用になっていること、さらに軸性ベクトル流が磁場と密度の異常電流成分を含んでいることに注目して、磁場と非一様相との関係を入念に調べ直した。その結果、従来信じられてきた振る舞いとは全く逆の、磁場中では非一様相が抑制される、という結論に達した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでのところ予定通りに研究が進んでおり論文も順調に発表・出版されている。途中、転職により所属大学が変わったことから、想定外の雑務に忙殺されて研究をなかなか進められずにいた時期もあったが、夏学期のうちに予定以上に研究を進めていたこと、さらに学期の終わった2月から再び精力的に研究を再開したことにより、全体的に平均すると、ほぼ予定通りの進捗状況になった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は、相対論的重イオン衝突実験ですでに観測されている陽子数の揺らぎについて、定量的な解析を進めている。すでにハドロンガスの場合、相互作用する平均場模型の場合、それぞれについて解析を終え、実験データと非常によく合う結果を得ている。この結果は近いうちに発表すべく準備を進めている。また同時に、このようなデータ解析からダイクォークの間接的証拠をつかむために理論計算を進めている。この計算は主にハイデルベルク大学のグループと共同して、非摂動繰り込み群の手法を使って定式化している。既にある程度の数値計算結果は蓄積しているのだが、まだ実験データと肉薄するところまで議論が熟していないので、その部分をどう詰めていくかが今後の課題である。ダイクォークはいわゆるエキゾチックハドロンと呼ばれる、従来のクォーク模型では説明できない特異なクォーク多体系をひもとく鍵だと信じられている。今まで実験で直接、ダイクォークが見えたことないが、現在、J-PARCなど様々な原子核実験でダイクォークの片鱗をつかもうと、活発な議論が展開されつつある。我々はダイクォークをハドロンスペクトルとは別の文脈、つまり原子核物質・クォーク物質の中で議論しているのだが、もちろん密接な関係があるので、今後は、ハドロンガス模型を改良するなどして、原子核物質中のダイクォーク描像と、エキゾチックハドロンとの接点をより定量的に深化させていくことが、より重要な課題となってくるだろう。このような方向性で研究を推進していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
セミナー講師への謝金として使用したいが今年度の残金では不足しているため、次年度に繰り越して次年度予算と合わせてから、セミナーを開催することにした。 次年度の予算と合わせてセミナー講師への謝金として行使する予定。
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Research Products
(11 results)