2013 Fiscal Year Research-status Report
硬X線集光望遠鏡による銀河団の電子加速・加熱メカニズムの新展開
Project/Area Number |
24740185
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
北口 貴雄 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 特別研究員 (30620679)
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Keywords | 国際研究者交流 / アメリカ / 宇宙X線 / 銀河団 |
Research Abstract |
アメリカNASAの小型衛星ミッションであるNuSTAR衛星に搭載した宇宙高エネルギーX線集光望遠鏡を用いて、3つの銀河団(弾丸銀河団、Abell 2256、かみのけ座銀河団)を観測し、粒子加速の証拠となる非熱的なX線放射を探査した。弾丸銀河団では、非熱的な放射は銀河団プラズマからの熱的放射に埋もれていて、有意には検出しておらず、これまでより厳しい非熱的X線フラックスの上限値および磁場強度の下限値を導くことができた (Wik et al., ApJ, submitted)。その他の銀河団についても、現在も解析は進行中ではあるが、同じく非熱的な放射を有意には検出していない。 銀河団以外に、NuSTAR衛星を用いて、粒子加速の兆候のある自転の速い白色矮星を持つ連星系 AE Aquarii を観測した。しかし以前に報告されたパルス幅の狭い放射は見当たらず粒子加速現象を追認できなかったが、代わりにパルス幅は広く比較的温度の低い放射を見つけた。そして観測した放射は、標準的な降着柱からの放射モデルでは表せず、それを降着率の低い場合まで拡張することで説明できることを示した (Kitaguchi et al., ApJ, 2014)。 その他にも、NuSTAR衛星で超新星残骸カシオペア座Aを観測して、爆発時に合成されたチタン-44の崩壊により放射される高エネルギーX線輝線の画像を初めて撮像し、そのいびつな分布から星が非対称に爆発したことを突き止めた (Grefenstette et al., Nature, 2014)。私は輝線検出有意度を最大にするイベント選別を考案したこと、輝線プロファイルを正確に決めるために焦点面検出器の高エネルギーX線の輝線応答を較正したこと、および日本語のプレスリリースを行うことを担当した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NuSTAR衛星は打ち上げから順調に天体観測を続けており、これまで銀河団をのべ半月ほどの間、観測してきた。期待していた粒子加速の証拠となる非熱的な高エネルギーX線は、今のところ有意には検出できていないが、10 keVを超える熱的な高エネルギーX線の良質なイメージおよびスペクトルを取得できている。銀河団の観測結果の信頼性を高めるために行ってきた望遠鏡の較正は、そのまま他の天体観測データに応用でき、例えば超新星残骸カシオペヤ座Aから世界初の核ガンマ線イメージを撮像することに成功し、その研究成果についてプレスリリースを行った。したがって、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度まで行ってきた望遠鏡の宇宙空間での性能評価により、NuSTAR衛星の天体観測データの解析手法はほぼ確立し、その系統誤差は数%以下にまで抑えられた。この較正結果は、NuSTARの一般ユーザーに公開すべき情報なので、国際会議で発表し、投稿論文にまとめるつもりである。並行して、銀河団を中心に天体解析に力を入れる。特に銀河団同士が衝突している弾丸銀河団の熱的プラズマの物理状態を、NuSTAR衛星による高エネルギーX線データとすざく衛星による低エネルギーX線データを組み合わせて調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
アメリカ・ブルックヘブン国立研究所にてX線検出器をシンクロトロン放射光に照射する実験を予定していたが、アメリカでの大雪による準備の遅延により、実験および渡米を直前でキャンセルした。その分の旅費および滞在費を次年度に繰り越すことにした。 NuSTAR衛星の宇宙空間での性能評価について、次年度に開かれる国際学会にて口頭発表し、会議集録にまとめることが決まっているので、その旅費、学会参加費、そして論文投稿費を、研究費用として計上する。またNuSTAR衛星はアメリカNASAの小型衛星計画であるため、アメリカに主にいるNuSTARチームと解析内容および結果を直接議論するための渡米旅費も加算する。さらに、昨年度キャンセルしたアメリカ・ブルックヘブン国立研究所でのX線ビーム照射実験は、次年度に行う予定であり、そのための渡航費および滞在費を計上する
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Research Products
(12 results)