2012 Fiscal Year Research-status Report
光ハイドロフォンを用いた量子液体中の音響タブレンスの実験
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24740206
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
小原 顕 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (50347481)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ハイロドロフォン / 低温技術 / 音響学 / 非線形物理学 / 気泡生成 |
Research Abstract |
液体Heに大振幅の定在波音波を励起すると非定常な巨大音響吸収が観測される。これは音場によって蒸気泡が生成されたことによる音響エネルギーの吸収である。申請者は、生成された泡が音場と相互作用すると泡が非線形な膨張収縮運動を行う筈であり、その結果非定常な吸収がおきると予想している。この説を定量的に証明するためには、リアルタイムに音場の絶対値を測定できる装置、すなわち光ハイドロフォンが必要である。しかし、既存の装置は低感度で室温でしか動作しないという問題がある。 そもそも光ハイドロフォンとは光ファイバとそれに接する媒質界面における古典光学的屈折率の違いを反射率として観測する装置である。本年度は、まず低温とサーマルサイクルにも耐える光ファイバを選定した。次に、室温のファイバと空気の屈折率の差に起因する反射光の測定から、光学系の構築・最適化を行った。その結果、今後の発展につながる重要な知見を得た:レーザ光源の反射光を利用するため、必然的に光学系にキャビティーが形成される。光ファイバが揺れるとキャビティ長が振動するため出力も変動する。即ち、キャビティーを極力作らないか、出来ても揺れないように実装する事が重要である(中でもアイソレータの導入が最も効果が高かった)。 今年度は光ハイドロフォンの開発に加え、簡易冷凍気を新たに製作し、超流動相を含む1~4Kの液体ヘリウム中で反射率を行い、換算された密度と公称値が全温度領域で一致することを世界で始めて示した。また、液中に置かれた温度制御用ヒータから発生した気泡が光ファイバの端面に接触すると巨大な信号が観測されることを、偶然発見した(気泡センサとしては極めて高感度であることを示している)。 また、ロックインアンプを用いた検波法では応答速度に限界がある事も解った。今後はハイドロフォンとしての機能を確立するため、RF検波技術の応用可能性を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)室温~1Kまでの液体・気体中で一定な屈折率を維持でき、多数のサーマルサイクルにも耐えうる光ファイバを選定することができた。低温への光ファイバの導入実績のある研究者より「石英系ファイバなら概ね使用可能」という情報を得た事が大きい。また、光ファイバおよび周辺光学装置の取扱いに関するノウハウの蓄積を行った。これにより、最初のステップをクリアしたといえる。(2)反射光は非常に微弱な信号であるので、通常のCW赤外光レーザと光検出器単独では実用に耐えない。そこで、レーザ発信器の出力に振幅変調をかけ、高感度光センサの出力をロックイン検波することによりかなりの高感度を達成できた。これは当初の計画どおり進んだ。(3)4Kの気液界面における密度差に起因する屈折率差を観測することができた(4)簡易冷凍器を新たに製作し、超流動相を含む1~4Kの液体ヘリウム中で反射率測定をおこなった。反射率から換算された密度は公称値と全温度領域で概ね一致することを世界で始めて示した。これで技術的な基礎は固まった。残るは高速化である。(5)液中に置かれた温度制御用ヒータから発生した気泡が光ファイバの端面に接触すると巨大な信号が観測されることを、偶然発見した。気泡センサとしては極めて高感度であり、当初の予定にはなかったことである。(6)当初の予定よりもセンサー開発に重点を置いたため、冷凍器は簡易型のものしか製作できていない。簡易型冷凍機はいわゆる試料直接減圧排気をおこなうため、原理的に液体の動きが激しい。そのため、センサー用の光ファイバを激しく機械的に振動させることに起因するノイズが大きいことが解った。今後は連続型1K冷凍器の開発に重点をおき、より静音かつ低温で長時間運転できる環境を早急に整えていかねばならない。以上の様に、冷凍機の開発は遅れているが、センサシステムの構築では予想以上の成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
簡易冷凍器を改良し、加圧状態(静水圧)を用いて圧力密度換算を行い、1~4Kにおける液体ヘリウムの温度・密度・圧力関係式(すなわち状態方程式)の決定を行う。これにより、圧力計としての機能が確立する。次に、高速化を行い、ハイドロフォンとしての機能を確立する。現在用いているロックイン検波法は感度は高いが応答速度に限界があることが解ってきた。むしろ、周波数をMHz帯まであげることができればショットキーバリアダイオードのリング(デ)モジュレータを用いた非線形検波法が有効である可能性が高いので、応用を検討している。この手法はいわゆるAMラジオの変調・復調と同様な歴史ある技術であり、ロックイン検波に比べればはるかに安価で勘弁である。これが可能になれば、将来複数チャネルの測定が可能になる事を意味している。純粋な多地点観測(音響イメージング)を行うことも可能だし、差動プローブを構成することも可能になるだろう。計測技術としては極めて有効な手段である。 ただし、現状の簡易型冷凍器は対流と沸騰による液体の流動が大きいためセンサーファイバが機械的に大きく振動し、また寄生発生するレーザキャビティと干渉して大きな出力変動を引き起こすという欠点がある事が解ってきた。そこで、連続型1K冷凍機の開発を加速させ、できる限り早い時期に光ハイドロフォンの導入を行う。連続型冷凍機は原理的に液体を流動させないからである。そのうえ、到達可能温度がより低くなり、温度も精度も二桁以上向上する筈である。魔法瓶は本予算ですでに購入済みである。 最終的には、ピエゾ振動子によって大振幅定在波音波を励起し、キャビテーションを引き起こし、その際に発せられるであろう異常な圧力変動を光学ハイドロフォンを用いて観測したい。ピエゾ振動子と共鳴装置は既存のものをそのまま使うことができる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「該当なし」
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Research Products
(3 results)