2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740247
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
家田 淳一 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究員 (20463797)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | スピン流 / スピン起電力 / 磁壁 / 磁気異方性 / 形状効果 / 直流交流変換 / スピン回転結合 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
磁化運動によるスピン流制御に関して、代表者がこれまでに理論的な提案を行い、実験グループと共同で開発を進めてきた磁壁の運動に伴うスピン起電力に特に注目し、そのさらなる応用展開を図った。 第一に取り組んだ課題は、スピン起電力の出力安定化機構の解明である。数値シミュレーションを用いた解析により、スピン起電力に生じるスパイク状ノイズの原因は、磁壁の変形を伴う非線形ダイナミクスにあることを突き止めた。そこで、磁気異方性の大きな強磁性体を用いることで、磁壁の運動を制御しこれまでの100 倍の大きさのスピン起電力が安定して生成されることを理論的に明らかにした。また、磁気異方性の大きな物質は素子の微細化の点でも有利であることを示した。以上の結果は、Appl. Phys. Lett.誌に発表され、スピン起電力を応用する際の材料設計に強力な指針を与える研究成果であるとして、Virtual Journal of Nanoscale Science and Technology誌に注目論文として取り上げられた。 以上の成果に基づき、第二に、ナノ加工を施した磁性細線を用いることで、直流磁場を交流電圧に直接変換する機構を考案した。これにより、入力する直流磁場の大きさや変換に用いる強磁性細線の形状を変えることで出力電圧の交流特性が制御可能となる。本成果はAppl. Phys. Lett.誌に発表され、磁気と電気という異種のエネルギー形態を直接結びつけた、高効率なエレクトロニクス分野を切り開く大きな一歩であり待機電源が不要な電子素子などへの応用が期待されるとして、American Institute of Physics (AIP) の注目論文(Physics News Highlights)に選定され、Physorg.comを含めた複数の海外技術情報ポータルサイト、電気新聞、日本経済新聞で報道された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ナノ構造磁性体における磁化運動および力学運動を用いた新しいスピン流の生成・制御手法の確立に向け、現実的な物質材料設計に必要な理論基盤の構築を目的としている。 「研究実績の概要」で述べたように、計画では想定していなかったスピン起電力の持つユニークな性質ー磁気・電気インバータの原理ーを理論的に引き出すことに成功した。現在、この成果に基づいた実証実験が、共同研究を行う実験グループにより進行中である。 また、H25年度以降の研究計画の主な研究対象であった、スピン流の力学的制御の理論に関しても重要な進展があった。これは、バンド間遷移を取り込んだ有効模型による理論解析により、スピン回転結合の強さが大幅に変調されることを示したもので、力学回転により生成されるスピン流の増幅機構を明らかにするものである。 このように、研究期間の初年度にしてすでに目標に掲げた新規スピン流制御法における物質材料設計の指針を与える成果が上がっていると共に、スピントロニクスに基づく新しいパワーエレクトロニクス、すなわちパワースピントロニクスという新分野の研究展望も開けてきている。以上のことから、上記区分を選定した。
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Strategy for Future Research Activity |
スピン起電力に関しては、現在国内外の複数の実験グループと共同研究を推進しており、今後も緊密な連携を継続していく。特に、磁性細線の材料や形状に依存したスピン起電力出力信号の制御については、本研究で開発した数値解析手法が適用される。また、スピン軌道相互作用の効果を取り込んだ解析についてはすでに予備的な結果を得ており、H25年度中の論文発表が見込まれる。後者のテーマは、米国マイアミ大学S. E. Barnes教授との国際共同研究である。 力学回転によるスピン流制御に関しては、固体の局所変形に伴う回転モードとの関係を詳細に調べており、すでに一部学会発表も行い論文投稿も行った。論文は現在査読中であり、これもH25年度中の成果発表が見込まれる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使用計画に大きな変更はないが、上述の共同研究を推進するため適宜研究打ち合わせを行う必要があり、次年度使用額は旅費に充填する予定である。
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