2012 Fiscal Year Research-status Report
初期相関を伴う量子複合系のダイナミクス-厳密な扱い-
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24740260
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
北島 佐知子 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 准教授 (70334571)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ディコヒーレンス / エンタングルメント / 初期相関 |
Research Abstract |
環境系の影響下における量子系の緩和現象に関する研究はかねてから盛んに行われてきている。本研究課題では初期に相関を有する量子複合系を量子非平衡物理の観点から取り上げている。すなわち、環境系を有するJaynes-Cummings(JC)模型を出発点としたモデル構築を行い、量子系のエンタングルメントや非マルコフ性に着目して、その部分系の緩和現象に初期相関がどのような影響を与えるか、という問題の解明を目指している。本研究課題の特色の一つは、全系が低励起状態である場合を扱うことにある。この場合、密度行列の時間発展を求めると、ある条件下で厳密な解析解を得ることができる。 今年度は、スピン系、または光子系のいずれかが環境の影響下にあるJC模型を取りあげ、縮約ダイナミクスを詳細に調べた。環境系を調和振動子の集団とし、全系の初期状態を高々1励起の量子状態とすれば、JC模型のスピン系、光子系はいずれも二準位状態の系として扱うことが可能となる。よって、相関を有する全系の初期状態をもとに時間発展方程式を解き、全系の密度行列に対する厳密解を得ることができた。さらに種々の物理量の期待値を求め、部分系の緩和現象に現れる初期相関の効果を論じた。また、全系のうち任意の2つの部分系に対してコンカレンスを求め、初期相関を有する場合のエンタングルメントの時間変化を追った。さらに、近年関心が広まっている非マルコフ性に着目し、トレース距離とよばれる状態判別量を求め、その振る舞いを調べた。以上より、注目している系の内部相互作用強度や、環境の性質を性格づけるパラメーター変化によって、特徴的振る舞いが現れることがわかった。 これらの成果は現在論文を投稿査読中であり、さらに次年度に向けた準備を進め、2013年3月の日本物理学会にて口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、量子複合系における初期相関の効果が量子系の緩和現象に与える影響について論じることを目的としている。具体的には、環境系に囲まれた注目する系としてJaynes-Cummings(JC)模型を対象とし、モデル構築を行っている。その際、全系は高々一励起の量子状態にあるとして、時間発展方程式を解くことによって全系の情報を担う密度行列の時間発展を求めることができる。このことを踏まえて、各部分系の緩和現象の機構を詳細に論じることができ、さらには、環境系、スピン系、光子系のうち任意の2つの部分系間のエンタングルメントの時間変化や、近年研究が盛んに行われている部分系の非マルコフ性に注目し、それらの指標となる物理量の期待値、トレース距離の振る舞いの検討を行っている。 今年度は特に、1つの環境系とJC模型から成る量子複合系、すなわち、JC模型を構成するスピン系、または光子系のいずれか一方が環境系と相互作用をしている場合を取り上げている。この内容については当初の予定通りに進められ、モデル構築、定式化、時間変化のグラフ化を行い、それらの結果を通して検討を行った。これらの成果を論文にまとめ、現在投稿、査読中である。また、次年度の研究対象予定である2環境モデルの予備的研究を進めた結果を日本物理学会で発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き、次年度にも当初の計画内容を遂行できるように準備を進めている。具体的には、2つの独立した環境系を有する量子複合系を取り上げる。このモデル化・定式化は既に行っており、今年度の研究実施を通して、さらに一般的な拡張を行う予定である。すなわち、低励起JC模型と等価な2つのスピン系から成る模型をとりあげ、両スピン間にハイゼンベルグ型の相互作用が行われていると考える。2つのスピン系はそれぞれ独立に環境系と相互作用を行っているとした。このモデルについての研究は現在すでに予定以上に進展しており、今年度同様、密度行列の時間発展を厳密に求め、各部分系の物理量の期待値、コンカレンス、トレース距離に対する定式化を行った。いくつかのパラメーターを変化させて数値計算を行い、その振る舞いを検討した内容は、既に日本物理学会にて発表を行なっている。ここまでの準備をもとに、次年度も引き続いて当該の量子複合系で見られる特徴的な振る舞いの詳細をさらに検討し、その成果を査読付き論文としてまとめる予定である。また、これまでの経過を踏まえて、量子マスター方程式との関連など、さらに発展した内容を取り扱う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度使用した研究費のうち、研究遂行に必要な物品購入額に比べて実際の購入額が安価であったため、次年度使用額が生じた。 これらの使用額は次年度の研究費に合わせてプリンター関連の消耗品の購入に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)