2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740289
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
菱田 真史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70519058)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ソフトマター / 自己組織化 / 水和 / 生体膜 |
Research Abstract |
生体膜の基本構造である脂質二重膜がどのようなメカニズムで自己組織化し、構造変化をするのかを理解するために、周囲の水の役割について検討した。とくに本研究計画では、これまで我々が明らかにしてきた脂質二重膜の長距離水和状態が、どう脂質二重膜の構造変化と関わるのかを多角的な実験・理論から明らかにすることを目標としている。そこでまず、周囲の水分子の振る舞いに対する脂質分子依存性をテラヘルツ分光法によって観測を行った。その結果、生体中で膜融合に特異的に働く脂質表面では、それ以外の脂質表面とは水分子のダイナミクスが大きく異なることが分かった。次にこの水分子のダイナミクスの違いが膜の構造変化とどうか変わるのかを調べるために、X線小角散乱法を用いて水和状態を変化させたときの膜構造を観測した。その結果、膜融合に特異的脂質およびそれ以外の脂質ではいずれも同様の構造変化が見られるものの、その構造変化を起こすための水和状態への摂動の与え方に大きな違いがあることが分かった。つまり、水和状態の違いが膜の構造変化に本質的に携わっていることが分かった。これは、水の特徴的なダイナミクスが生命活動に積極的に関わっていることを示している、大変重要な結果である。本結果は現在論文投稿中である。また現在はこの結果をさらに補強するため、熱分析によるアプローチや、蛍光分光法を用いた水和状態の観測、添加物を加えた系での構造変化など、多角的な実験をさらに進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、生体膜の構成分子であるリン脂質に対し、普遍的に存在する脂質分子と膜融合に特異的な脂質分子との水和状態および相転移挙動の差を調べた。そうしたところ、当初 想像していたよりも遙かに大きな違いがあることが実験で見られた。このような大きな差がでるとは思っておらず、わずかな違いを精査する必要があると考えていたため、その精査に時間が掛かることを予想していた。しかし想像以上にはっきりとした結果を得ることができたので、解析に対する大きな苦労なく先に進めたことが大きい。 また、それによって実験系が構築可能となった脂質膜の構造相転移の実験を台湾への出張実験を行うことで行うことができたことも大きい。この実験は、日本で行う場合には装置の作製から行う必要があり、時間の掛かるものと考えていたが、幸いに台湾の研究所で実験機会を与えて頂くことでスムーズに行うことが可能となった。さらに代表者が新たな所属機関へ異動することで新たな実験手法(とくに熱測定法による水和状態の測定技術)を身につけつつあることも大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度において想像以上の良い結果を得られたので、今後もこの課題について今のまま進めていく予定である。本研究課題で重要なのは、一つの現象を多角的に観測することから脂質膜の自己組織化における水和の影響を見出す点にある。本年度は主に、テラヘルツ分光法による水和状態の測定とX線小角散乱法による脂質膜の構造変化の測定を行った。そこでとくに次年度は、これまでに行ってきた実験とは別の手法を用いて結果を精査していく。具体的には、現所属機関で新たに習得した種々の熱力学的手法と蛍光および赤外分光法を用いることで研究課題に取り組んでいく予定である。熱力学的手法では、水の凍結・融解過程における潜熱を測定することにより、水和状態の変化によってその潜熱がどう変化するのか、またそれによって水和水の熱力学的状態がどのようにバルク水と異なるのかを明らかにする。蛍光・および赤外分光法でも脂質膜の水和状態の測定を行う。水素結合状態の変化とよりマクロな水和状態の関係性について明らかにする。またX線の実験は本研究課題の一つの柱であるために、これまで同様積極的に外部施設への出張実験を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は少額の備品と消耗品(種々の実験器具やサンプル)、数回の国内外への出張費に使用する予定である。50万円を超えるような機器の購入予定はない。とくにこれまでの実験結果から、よいデータをとるためには試料の濃度が重要であることも分かったので、試料である脂質や蛍光分子の購入費が多くなると考えている。
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