2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24740289
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
菱田 真史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (70519058)
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Keywords | 脂質二重膜 / 水和 / 自己組織化 / 相転移 |
Research Abstract |
生体膜の基本構造である脂質二重膜がどのようなメカニズムで自己組織化し、構造変化をするのかを理解するために、周囲の水の役割について検討した。とくに本研究計画では、これまで我々が明らかにしてきた脂質二重膜の長距離水和状態が、どう脂質二重膜の構造変化と関わるのかを多角的な実験・理論から明らかにすることを目標としている。研究計画の2年目である平成25年度にはまず昨年度に引き続いて、テラヘルツ分光法によって明らかにされた脂質の水和状態の違いが、脂質の相転移や膜間相互作用にどのように関わっているのかを主にX線小角散乱法をもちいて調べた。その結果、脂質のラメラ相からヘキサゴナル相への相転移挙動には水和状態が大きく関与していることを見いだし、その成果はJ. Phys. Soc. Jpn.誌にて発表された。また、脂質膜水溶液に塩を添加することで水和状態を変化させて膜間相互作用を見積もったところ、やはり膜間の相互作用にも水が関与している可能性が高いと言う結果が示された。本成果は現在論文投稿中である。これらの結果はこれまで根拠なく無視されてきたそソフトマターの自己組織化に対する水の影響を浮かび上がらせるものであり、歴史的にも大変重要な成果である。またそれ以外にも熱測定を行うことで膜間に存在している水和水の熱的状態を測定することにも試みた。その結果、膜間の水の比熱が普通の水に比べてかなり小さいということも分かった。水和水の物性というミクロな情報を熱測定というマクロな測定から知ることができるということを示したことは大変重要で、本結果も現在論文準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通り、もしくは少しそれを上回るペースで研究が進展していると考えている。採択までにすこし時間がかかったものの水和と脂質の相転移に関する成果がJPSJ誌にて発表され、またその他の成果も論文投稿中である。本研究計画で重要なのは多角的な側面から水和と自己組織化の関係を明らかにする点である。現時点ですでに、脂質の相転移・膜間相互作用との関係を明らかにし、また水和水の熱的な状態の解明も進んでいるので、様々な視点で捉えるという実験的成果は達成しつつある。今後はこれらの成果を合わせ、理論的な側面にまで踏み込んだ研究を行うことが重要であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの2年間で実験的な成果は計画通りかそれ以上に進んでいると言える。今後は熱測定による水和水の熱的状態の解明をより推し進めるのに加え、蛍光分光を用いた水和状態の観測も行っていく。またX線の実験は本研究課題の一つの柱であるために、これまで同様積極的に外部施設への出張実験を行う。これらの実験を合わせることで、分光的に観測できる物理量とは異なる物理量が脂質膜の構造とどう関わるのかを明らかにする。また最終年度に重要であるのは、これらの成果を統一的に捉えることであるとも考えている。そこで今後はこれらの実験に加え、それらを理解するための理論的な研究を進めていきたい。
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