2012 Fiscal Year Research-status Report
野生酵母産膜シグナル伝達経路の全容解明と、革新的ワイン産膜防止法開発への応用
Project/Area Number |
24780069
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
中川 洋史 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (30362081)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 野生酵母 / 産膜 / FLO11 / プロモーター置換 / グルコースシグナル伝達経路 / 遺伝子破壊 |
Research Abstract |
貯蔵熟成中のワインの品質を著しく低下させるワイン産膜現象の汎用的な防止方法は、未だ開発されていない。研究代表者らは最近、野生産膜性酵母によるワイン産膜現象に、FLO11遺伝子が必須であることを見出した。本研究は、野生産膜性酵母においてFLO11の発現を制御する産膜シグナル伝達経路の全容を解明し、革新的なワイン産膜防止方法の開発に応用することを目的としている。産膜は高濃度のグルコース存在下で抑制されることが知られていることから、平成24年度は、まず、野生産膜性酵母におけるグルコースによる産膜制御機構について詳細な解析を行った。野生産膜性酵母株を用いて、低グルコース濃度(0.5% w/v)及び、高グルコース濃度(5% w/v)培地において産膜試験を行ったところ、高グルコース濃度培地において産膜が抑制された。FLO11 mRNAの発現量を解析した結果、高グルコース濃度培地では低グルコース濃度培地に比べFLO11 mRNAの発現量が顕著に低かった。この結果から、グルコース濃度が高いとFLO11の転写が抑制されることが示された。そこで、FLO11プロモーター置換株(FLO11だけグルコース抑制を解除した株)を構築し、産膜試験を行った結果、FLO11プロモーター置換株は高グルコース濃度培地においても産膜を形成した。この結果から、グルコースによる産膜の抑制は、FLO11の発現低下を介していることが明らかになった。従って、野生産膜性酵母においてFLO11の発現を制御する産膜シグナル伝達経路の一つが、グルコースシグナル伝達経路であることが示された。そこで、このシグナル伝達経路を明らかにするために、出芽酵母における主要なグルコースシグナル伝達経路であるSnf1キナーゼ経路を構成するSNF1遺伝子の破壊を行った。その結果、野生産膜性酵母株のSNF1二重破壊株の構築に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
野生産膜性酵母における産膜シグナル伝達経路の一つが、グルコースシグナル伝達経路であることを明らかにし、野生産膜性酵母株のSNF1二重破壊株の構築にも成功したが、シグナル伝達経路の構成因子の同定にまでは至っていないため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に野生産膜性酵母においてFLO11の発現を制御する産膜シグナル伝達経路の一つが、グルコースシグナル伝達経路であることを明らかにすることができたので、今後は、このグルコースシグナル伝達経路の構成因子を明らかにすることを優先的に行う。まず、出芽酵母における主要なグルコースシグナル伝達経路であるSnf1キナーゼ(Snf1)経路を構成するSNF1遺伝子の破壊株において、FLO11の発現量を解析するとともに、産膜に影響が見られるか否かを調べることで、Snf1経路が産膜シグナル伝達経路であるか否かを明らかにする。 また、実験室酵母のΣ1278b系統の株において、偽菌糸形成や寒天培地への侵入増殖に関与するFLO11の発現を制御するシグナル伝達経路として、上記のSnf1経路以外に、cAMP依存性タンパク質リン酸化酵素A(cAMP-PKA)経路、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路、および一般アミノ酸制御(GCN)経路が報告されている。これらの経路が産膜シグナル伝達経路である可能性もあるので、野生産膜性酵母においてこれらの経路を構成する遺伝子(それぞれFLO8、TEC1、およびGCN4)を破壊することで、産膜シグナル伝達経路であるか否かを解析する。さらに、各シグナル伝達経路の多重破壊株も構築し、産膜が複数のシグナル伝達経路によって多重に制御されているか否かを調べ、野生産膜性酵母の産膜シグナル伝達経路の全容を解明する。 さらに、山梨県内および県外の複数のワイナリーにおいて醸造された各種赤ワインおよび白ワインに野生産膜性酵母株を接種し、上記シグナル伝達経路の人為的コントロール(例えば、産膜シグナル伝達経路の阻害物質をワイン中に分泌するワイン用酵母や乳酸菌の添加等)により実際に産膜を抑制できるか否かを検討することで、革新的なワイン産膜防止方法を開発する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費について。:平成24年度の物品費は、ほぼ計画通りの支出額となった。平成25年度は、上記の今後の研究の推進方策に従って研究を行うために必要な物品の購入に使用する。具体的には、酵母及び大腸菌培養用試薬及び器具、酵母用各種抗生物質、分子生物学実験用試薬及び器具、合成オリゴヌクレオチド、産膜実験用ワイン等の消耗品の購入に使用する計画である。 旅費について。:平成24年度の旅費は、成果発表のための旅費として全額を計上していたが、本研究課題の研究成果では学会発表を行わなかったので、支出は0円となり、未使用額は平成25年度に繰り越した。平成25年度は、日本農芸化学会大会等で成果発表を行う際に必要な国内旅費として使用する計画である。 人件費・謝金について。:平成24年度の人件費・謝金は、国際誌投稿のための英文校閲費用として全額を計上していたが、本研究課題の研究成果では国際誌投稿を行わなかったので、支出は0円となり、未使用額は平成25年度に繰り越した。平成25年度は、本研究課題の研究成果で国際誌に投稿する予定であるので、国際誌投稿のための英文校閲費用として使用する計画である。 その他の経費について。:平成24年度のその他の経費は、論文公表に必要な学会誌掲載料と、DNAの塩基配列解読のための外注費用として全額を計上していたが、本研究課題の研究成果では国際誌(学会誌)投稿を行わなかったので、DNAの塩基配列解読のための外注費用のみの支出となり、未使用額は平成25年度に繰り越した。平成25年度は、本研究課題の研究成果で国際誌(学会誌)に投稿する予定であるので、論文公表に必要な学会誌掲載料と、平成24年度と同様に、DNAの塩基配列解読のための外注費用として使用する計画である。
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