2013 Fiscal Year Research-status Report
昆虫のイオンチャネル型受容体を利用した匂いセンサの開発
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24780329
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
光野 秀文 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (60511855)
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Keywords | 昆虫 / 生体分子 / 匂いセンサ / イオンチャネル型受容体 / 流路チップ |
Research Abstract |
昆虫の化学感覚受容体は嗅覚受容体(OR)とイオンチャネル型受容体(IR)に分類され、前者は主にアルコール類やエステル類、後者はアミン類や酸といった匂い物質を受容する。代表者らはORを発現させたSf21細胞をセンサ素子とする匂いセンサの開発を進めてきたが、IRを対象とした匂いセンサの開発には至っていない。本研究は、IRを利用してアミン類や酸を高感度に検出できる匂いセンサ構築の基礎技術の確立を目的とする。平成25年度は、①匂い検出素子の構築、②匂い検出素子の機能評価、③匂いセンサチップの構築を並行して実施した。 ①前年度に単離した16種類のIR遺伝子のうち、匂い物質に対する応答が明らかにされている2種類のIR(Ir84a及びIr75a)を対象に、補助タンパク質Ir8a及びカルシウム感受性蛍光タンパク質とともにSf21細胞に遺伝子導入した。抗生物質抵抗遺伝子の発現、及びRT-PCRによるIR遺伝子の転写を指標にしたスクリーニングにより、それぞれのIRについて安定に遺伝子発現を示すSf21細胞系統を樹立した。 ②樹立した2種類の細胞系統について、カルシウムイメージングによる匂い物質に対する蛍光強度変化量の測定を試みた。それらのうち、Ir84aを導入した細胞系統において、Ir84aのリガンドであるフェニルアセトアルデヒドに対して選択的に蛍光応答を示し、10microM以下の検出閾値で濃度依存的な蛍光応答を示すことが分かった。 ③微細加工技術により、2種類のSf21細胞系統を並列配置でき、各細胞系統の蛍光計測が可能な、ジメチルポリシロキサンとホウケイ酸ガラス製のマイクロ流路チップを試作した。2種類の性フェロモン受容体発現Sf21細胞系統を試作したマイクロ流路チップ上に並列配置し匂いセンサチップを構築し、性フェロモン成分に対して各細胞系統の蛍光応答が取得できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キイロショウジョウバエのイオンチャネル型受容体(IR)を発現させたSf21細胞系統をマイクロ流路チップ上にアレイ化した匂いセンサ構築の基礎技術の確立を目指して、平成25年度は①匂い検出素子の構築、②匂い検出素子の機能評価、③匂いセンサチップの構築を並行して実施した。①匂い検出素子の構築では、複数種類のIRを対象にSf21細胞系統の樹立に成功し、②匂い検出素子の機能評価において、樹立したSf21細胞系統が、導入したIRが応答する匂い物質に対して選択的かつ濃度依存的に蛍光応答を示すことを初めて示すことに成功した。これにより、これまでに代表者らのグループで確立してきた、匂いセンサ素子として昆虫の嗅覚受容体を発現させたSf21細胞系統を作出する技術が、キイロショウジョウバエのIRにも適用できることが明らかとなった。現在、同様の手法に従い、他の複数種類のIRを対象に、Sf21細胞の作出、及びそれらの蛍光応答の取得を進めている。③匂いセンサチップの構築では、2種類の受容体発現Sf21細胞系統を並列配置し、蛍光応答を取得可能なマイクロ流路チップを試作した。現段階では性フェロモン受容体を対象としているが、マイクロ流路チップ上のSf21細胞系統から性フェロモン成分に対する蛍光応答を取得することに成功した。 以上の成果を総合的に判断して、現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」ものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、これまでの研究を発展・統合し、キイロショウジョウバエのIRを発現させたSf21細胞系統をマイクロ流路チップ上にアレイ化した匂いセンサ構築の基礎技術の確立を目指す。具体的には、①匂い検出素子の構築で、これまでに確立したSf21細胞系統の作出技術に従い、キイロショウジョウバエの複数種類のIRを対象に、IRを安定に発現する細胞系統を樹立する。②匂い検出素子の機能評価で、光学イメージングにより、樹立した細胞系統の匂い物質に対する選択性や濃度依存応答を取得する。アミン類や酸を含む数多くの匂い物質に対する細胞系統の検出性能は、蛍光マイクロプレートリーダや蛍光顕微鏡を用いて効率的に取得する。これにより、IRを発現させた細胞系統のアミン類や酸に対する匂い選択性を明らかにする。そして、③匂いセンサチップの構築で、平成25年度に試作したマイクロ流路チップ上に、①②で樹立・機能評価した細胞系統を導入し、匂いセンサチップを構築する。IRが応答する物質を含む複数種類の匂い物質に対する匂いセンサチップの蛍光応答を取得し評価することで、IRを発現させた細胞系統をアレイ化した匂いセンサ構築の基礎技術を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまで匂いセンサ素子となるIR遺伝子を導入した細胞系統を数種類樹立し、匂い物質に対する蛍光応答を測定してきた。しかし、導入したIRごとに、また同じIRにおいても細胞系統ごとに、匂い物質に対する蛍光強度変化量が異なることが分かってきた。そこで平成25年度では、計画を変更しRT-PCRによるIR遺伝子の転写を指標にしたスクリーニングを実施し、より明確な蛍光応答を示す細胞系統を樹立することとした。そのため、これまでに樹立したIR発現細胞系統が2種類に留まっており、平成25年度に未使用額が生じた。平成26年度では、これまでの研究を発展させ、対象とするIRの数を増加させ、細胞系統の樹立及び蛍光応答の計測を計画している。以上の理由から、次年度使用額が生じた。 これまでに樹立した細胞系統の系統維持及び継代培養と、新たに実施するRT-PCRによるIR遺伝子の発現解析に次年度使用額を充てたい。また、平成26年度で樹立予定のIR発現細胞系統の系統維持、継代培養、及び蛍光応答の計測のためにも次年度使用額を充てたい。
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