2012 Fiscal Year Annual Research Report
自然発生腫瘍マウスにおける抑制性免疫動態に関する研究
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24800033
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
瀬尾 尚宏 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任講師(研究担当) (50283354)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 癌免疫応答 / 免疫抑制 / 抗腫瘍免疫 / T細胞 / Treg細胞 / 自然免疫 / 自然発生腫瘍 |
Research Abstract |
1~2週間で急激に増殖する移植腫瘍の系ではなく、3MCA皮下投与による2~3ヶ月かけて自然発生腫瘍の系で、その投与皮下部及び所属及び非所属のリンパ節における抑制性の免疫細胞を中心に各種免疫細胞動態の変化について、免疫組織化学的手法を主にフローサイトメーターなどを組み合わせた方法で検討した結果、新規知見を含め癌免疫応答に重要だと思われる以下の知見を得ることができた。 1)CD4+Foxp3-T細胞は3MCA投与皮下部には2ヶ月程度までほとんど観られず、その所属及び非所属リンパ節内で強い動態変化が観察されない。2)CD4+Foxp3+T細胞は、腫瘍発生以前の3MCA投与皮下部ではほとんど観察されないが、腫瘍の発生経過と共に腫瘍内に浸潤する。さらにCD4+Foxp3+T細胞は3MCA投与から二ヶ月以降の所属及び非所属リンパ節でT細胞領域から髄質への移動が観察され、輸出リンパ管から全身循環している可能性が高いこと。3)CD11b+またはF4/80+のマクロファージは3MCA投与から腫瘍発生増殖に至る全期間で所属及び非所属リンパ節内に置ける目立った動態変化を起こさないものの、3MCA投与部では腫瘍発生に至るまでに強い浸潤が観られ、腫瘍発生の後は腫瘍内に高密度に存在する。4)NK細胞、NKT細胞、さらにはT細胞の一部の亜集団などのinnate及びadaptive免疫細胞動態は、3MCAによる腫瘍発生から数週間前に所属リンパ節ばかりでなく非所属リンパ節内でも激しい動態変化を起こし、これが腫瘍発生と大きく連動すること。5)リンパ節内では3MCA投与から2ヶ月程度経過してから、免疫抑制性と考えられるIL-10やTGF-βなどの強い産生が観られること。6)3MCA投与による腫瘍発生後は、所属リンパ節内での流出リンパ球が極端に減少すること。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度研究では、ヒト腫瘍に近い増殖性と間質を持った3MCAによる自然発生腫瘍の系で、その3MCA投与部、腫瘍部さらには所属リンパ節を探索することによって新しい免疫抑制現象を見出すことが目的であった。 3MCAによる自然発生腫瘍の実験系は、癌細胞移植による実験系に比べ腫瘍発生に2~3ヶ月を要する上、個体間での発生のばらつきも大きく、早急に繰り返し実験することが難しい。さらに免疫研究の場合、一系統の純系マウスでは得られる生物学的知見の信頼性は乏しく、通常二系統以上の違った純系マウスを用いる必要がある。 このように初年度の目標達成のためには、本研究は多系統のマウスと長時間の観察を必要とする研究であるが、わずか一年で確実でしかも移植癌での実験系では起こりえない世界に報告の無い統一的免疫抑制現象を見いだせた点は高く評価できるはずだし、順調に初年度目標をクリアできたと考えている。 次年度研究で、初年度研究で得た重大な免疫抑制現象を細胞レベル及び分子レベルで証明し、その癌免疫治療へのマウスレベルでの応用実験を行う予定である。また、積極的に本研究の論文による公表及び知的財産権取得に取り組むつもりである。これが達成できれば、癌免疫学研究領域の発展への重大な一助となるばかりでなく、日本の生命科学のレベルの高さを世界にアピールでできるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度研究では、3MCAを用いた発癌過程で、癌細胞傷害の主体となる細胞傷害性T細胞(CTL)のリンパ節における腫瘍抗原特異的な活性化とリンパ節への流出をブロックするシールド現象を発見した。 そこで、本年度研究では、1)そのシールド現象を形成する免疫細胞群の探求、2)シールド現象のCD8+CTLの活性化抑制機構の解明、3)シールド現象のによるCD8+CTLのリンパ節髄質移動のブロック現象の解明、4)シールド現象の破壊によるCD8+CTLの動態の観察、5)シールド現象崩壊による癌の免疫治療実験、などを行い、初年度に見出した癌免疫抑制機構のさらなる解明と新たな癌免疫療法の開発を行う。 具体的には、1)、2)、3)はPD-1, PD-L1, Fas, FAsL, CD107a, Granzyme B, IFN-γ, IL-10, TGF-β, Foxp3などに特異的な抗体を用いた免疫組織染色実験を中心とした方法で行う。4)及び5)については、コンジェニックマウスの実験系(例えばBALB/cマウスにBALB/cマックグラウンドでCD90.1マウスやC57BL/6マウスにC57BL/6バックグラウンドでCD45.2マウスの脾臓やリンパ節のナイーブT細胞またはCCR7+T細胞を移入したマウス)を用い、所属または非所属リンパ節からのCD8+CTLの流出と全身循環、さらには3MCA誘発腫瘍内への浸潤をトレースする。シールド現象の崩壊には、1)、2)、3)の実験結果を基に、シールド形成に関する特異的抗体の腫瘍内、皮下、静脈注射により達成する。他に可能であればがん患者リンパ節でシールド現象が観察されるかを検討する。
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