2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24820013
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
磯部 裕幸 東京大学, 総合文化研究科, 学術研究員 (10637317)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 戦前ドイツ / 植民地 / ナチズム / 医学 / 形質人類学 / 人種主義 / 植民地修正主義 / 記憶 |
Research Abstract |
2012年度は、ドイツにおける資史料調査および収集、そして関連書籍(二次文献)の購入、研究上必要なパソコン、プリンター、スキャナー等備品の購入を行なった。ドイツ滞在(2012年10月・11月)については、直接の渡航費や滞在費が、別枠(東京大学大学院総合文化研究科グローバルスタディーズ・プログラム)からの支出が認められたので、そちらを利用し、現地での史料収集(マイクロフィルム等からのコピー)および書籍購入にかかる費用については、科研費より執行した。 このうち資史料調査に関しては、ドイツ連邦文書館に約一ヶ月半ほど通った。そこでは主に、クラウス・シリングやフリードリヒ・クライネがアフリカから本国に宛てた医療研究報告書、すなわちドイツ保健省や外務省所蔵の文書を多数閲覧、印字することができた。印字した史料はA4で300枚程度にのぼった。これにより彼らが第一次世界大戦後、アフリカでどのような医学研究に携わったのか、そしてその成果がドイツ本国でどのように受け止められたのかをかなりの程度把握することができた。また残りの滞在期間を利用して、同じベルリンにある国立図書館を訪れ、戦間期ドイツにおいて出版された医学や人類学に関する雑誌、すなわち『週刊ドイツ医学新聞』『形態学・人類学雑誌』等を閲覧することができた。これらの一部は紙の傷みが激しく、複写が禁止されていたため、やむなく持参のデジタルカメラにてデータを保存した。 二次文献は、人種主義や植民地主義に関連するものや、広く「世界史」に関わるものも購入した。これはいわゆる人種主義が近代ドイツの問題にとどまらない「世界史的現象」だからである。こうした資史料の分析によって、戦間期ドイツの人種主義や人類学の動向、さらには植民地主義との関連、さらにはそうしたものの世界史的な位置や意味について、かなりの程度明らかになってきたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、ドイツ滞在中は研究対象である4人の医学者および形質人類学者たちの研究業績や、当時の公刊・未公刊史料などを数多く収集することができた。そればかりではない。彼らの研究業績に直接言及したものや、テーマとして関連が認められた同時代史料に関しても、ドイツで極力収集に努めた。また彼らのことについて扱っている先行研究(ほとんどがドイツ語で刊行)についても、おおむね現地で購入することができた。 こうした資史料の解読と分析にはすでに着手しているが、そこから言えることは、先行研究の多くが、本科研費助成事業が課題としている「植民地主義」と「ナチズム」との関連についての問題、すなわち上記4人がアフリカで何を研究し、その成果やキャリアがワイマール期やナチ期においてどのような意味を持ったのかについて、あまり関心を払っていないことである。その一方で収集した資史料が質的にも量的にも、そうした課題について、有意義な知見を提供できる可能性を秘めていることも、徐々に明らかになりつつある。それらの分析を通じて、本事業が設定した研究課題に対して応えることは充分可能であると考えられる。 なお2012年10月・11月の研究滞在の成果を、ごく一部ではあるが研究会「歴史と人間」12月シンポジウムで発表する機会を得た(磯部裕幸「『文明化の使命』から『植民地修正主義』へ―アフリカ『眠り病』と戦前ドイツの熱帯医学」:「歴史と人間」2012年12月シンポジウム「ドイツ帝国医療は「特有」だったか―中国ペストとアフリカ眠り病対策を中心に 於 一橋大学 2012年12月16日)。幸いなことに、ドイツ史関係者や植民地研究者から活発な議論がなされ、研究の進展に対する期待が表明された。本研究課題を行なうことは、ドイツおよび日本における、植民地史研究やナチズム研究にとっても充分に意義のあることだと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在のところ、本研究課題を推進する上で特段に大きな支障はないといえる。当初の研究計画にしたがって遂行することが重要であると思われる。本年度は、本研究事業の最終年度にあたるため、収集した資史料の分析をさらに進めるとともに、その成果を広く公表していくことを心掛けて行きたいと考えている。具体的にはまず、「現代史研究会」や研究会「歴史と人間」などでの研究発表があるだろう。また2013年4月から専任教員として着任した秀明大学においても、「教員研究発表会」が定期的に開催され、新任教員は必ず報告することになっているので、そうした場を利用して研究成果を問うていきたい。 研究成果を活字の形にすることも、今年度は積極的に行なっていきたいと考えている。具体的には『現代史研究』や『西洋史研究』あるいは『史学雑誌』等、学術雑誌への論文投稿がまず考えられるが、上述のように収集した資史料は量が膨大なため、またこの研究課題自体、先行研究が極めて少ないことに鑑み、ゆくゆくは成果を単著の形でまとめたいと考えている。そうすることで、本助成事業の成果について広く社会に問うことができ、また科学研究費という制度を広く国民に知ってもらう一助にもなると考えている。 現在考えている、単著の構成は以下の通りである。まず「序論」では植民地主義とナチズムの「連続性」に関する昨今の議論を整理した上で、人種主義の世界史的展開からこれを批判的に継承する。そして本論では上記研究対象の4人について、その伝記的側面をただ並列するのではなく、時代ごとに各人の接点や関係性を、社会的背景などにも留意しながら叙述する。扱う時代はドイツ第二帝政期から第二次世界大戦後の「非ナチ化裁判」くらいまでの時期とする。そして最後にドイツ史にとっての「植民地」の持つ意味を精査する。これらはまだ構想の段階に過ぎないが、一日も早く形となるよう鋭意努力していきたい。
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Research Products
(1 results)