2012 Fiscal Year Annual Research Report
財産権の現存保障の基礎理論構築―ドイツ建築・イミシオン・原子力法制の憲法学的分析
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24830058
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
平良 小百合 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (00631508)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | 財産権 / 現存保障 / 憲法 / ドイツ / 公法学 |
Research Abstract |
本研究は「適法なものとして現存している建築物や事業が、法改正や技術革新などにより不適法となった後もその存続を認められるという財産権の保障形態」(財産権の現存保障)を支える基礎理論を構築することを目的とする。 本年度は、ドイツの財産権論との比較研究を通して、主に現存保障(現有財産の保護)と法制度保障(制度形成の統制)の関係を明確に整理することを試みた。ドイツでは、現存保障は内容・限界規定の制定の局面で保障されるものと、収用の局面で保障されるものとに分けられている。前者の局面では、現存保障は法制度保障という大きな枠組みの中に取り込まれて保障されるという構造になっている。収用概念の狭小化に伴って、この局面は増加傾向にある。制度保障という枠組みのなかでもなお、現存保障の固有の意義は失われない。すなわち、ドイツでは、現存保障は法治国家原理に由来する信頼保護原則の顧慮という形で法制度保障審査の中に組み込まれている。本研究は、以上のことを示した。 さらに、近時注目を集めている「補償を要する内容・限界規定」をも現存保障の一局面として位置づけ、検討を加えた。信頼保護原則には金銭補償にとどまらない、多様な保障のなされかたの可能性があることを示した。 日本でも、現存保障は実際の法制度上広くみられるものであり、ときには強力な保護が問題を惹き起こすこともある。しかし、理論面での検討は深められてこなかった。現有財産への侵害が制度形成の一環でもあるということをふまえた検討はさほどなされず、現存保障を支える根拠として背後に控える信頼保護原則についても詳細な分析はなされてこなかった。本研究は、現存保障の理論的基礎づけとなりうるものであり、現有財産の適切な保護のあり方の再考へとつながるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究開始年度であったため、まずは研究に必要なドイツの文献を調査し、取り寄せるという作業に時間を費やした。ドイツにおける財産権の現存保障に関する総論的な議論を理解し、分析するための基礎的な文献資料は、おおかた蒐集できたように思う。また、研究会等への参加や研究協力者との面談による意見交換等を通じて、ドイツ公法学の現状に関する情報収集にも努めた。 それらの資料や情報を分析、検討し、本年度の主要な研究目的であった現存保障の理論的基礎づけの構築に関して、上記「研究実績の概要」に記したような研究成果を得ることができた。当初の計画では、信頼保護原則や「補償を要する内容・限界規定」には、それほどウェイトをおいていなかった。しかし、現存保障の理論的基礎づけを明らかにするうえで、それらを詳細に分析、検討する重要さに気づき、研究対象として新たに付け加えた。上記の研究成果については、私の財産権論研究の重要な一部を構成するものとして、文章化してまとめる作業を終えた。さらに、当初予定していた通り、ドイツにおける現存保障の要請の根拠づけ(憲法上直接か、法律による具体化を要するか)についての検討も進めている。この点について扱っている文献の到着が本年度後半であっため、研究成果としてまとめるには至っていない。 以上のことから、本年度達成することを目標としていた主要部分については、おおむね順調に進展しているとの自己評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き、現存保障に関する総論的考察を行う。それとともに、ドイツにおける総論的考察の日本への導入に際して、現在ある個々の法制度との適合性を検証するため、日独双方の個別領域を対象とした各論的考察を行う。 具体的には、第一に、現存保障がなされなければならないという要請の根拠づけを示すことを目的とした考察を行う。現存保障は憲法上の財産権から直接根拠づけられるのか、法律によって具体化された規定に根拠づけられるのかという点をめぐる学説の論争およびそれに関連する判示をしているドイツ行政裁判所の判例を分析し、それぞれの主張の含意を明らかにする。すでに、分析に必要な素材は手元にあり、研究を遂行中である。第二に、各論的考察として、個別の法制度(特に建築法制、イミシオン法制、原子力法制)において現存保障がどのようにあらわれているかを憲法上の財産権保障の観点から分析する。現存保障の起源となった分野である建築法制から始め、イミシオン防止法制、原子力法制と対象を拡大する。進捗が遅れた場合は、いずれかの法制度に絞り、内容の濃い研究とすることを目指す。 ドイツ・日本の文献の収集、分析が主たる作業となる。それに加えて、次年度は、ドイツへ赴き(ベルリン・フンボルト大学を予定している。)、資料収集を行うとともに、現地の公法学者と意見交換の機会を設けることを計画している。また、研究協力者との面談を行うことや、関東、関西、九州地区で行われている研究会へ出席する。それにより、他の研究者との意見交換、情報・資料収集の機会を積極的にもちながら、研究を推進していきたい。次年度は、2年間の研究の最終年度となる。終了時に、論文・研究会報告等の形で成果を残すべく研究に励みたい。
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