2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24890103
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
元岡 大祐 大阪大学, 微生物病研究所, 特任研究員 (10636830)
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Project Period (FY) |
2012-08-31 – 2014-03-31
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Keywords | メタゲノム解析 / 次世代シークエンサー / 感染症診断 / バイオインフォマティクス |
Research Abstract |
感染症は高い死因の一つであり、感染症の病原体(微生物やウイルスなど)を迅速に検出し、そのゲノム配列を決定することにより、感染症の診断および対策を施すことが重要である。これまでに多くの病原体検出法が開発されてきたが、感染症の拡大を最小限に抑えるためには、あらゆる病原体を統一したプロトコルで迅速に同定し、それに即した対策を実施することが肝要である。迅速な病原性微生物のゲノム同定には、ロングリードが可能な第3世代シークエンサーが有利であると考え、本年度は、第3世代シークエンサーによる病原体同定法の確立と第2世代シークエンサーとの比較検討を主に行った。 まず、解読に適した配列長やDNA断片化法を種々のバクテリアゲノムを用いて検討した。また、このようにして得られたDNA断片について1分子シークエンシングを行ったところ、平均リード長が4,500bp(最長13,000bp)のデータが得られた。ゲノムサイズが約1Mbpのバクテリアを用いた検討では、わずか90分のシークエンシングから得られるデータのみで、denovoアセンブリにより1本のコンティグに、約5Mbpのバクテリアでも1回のシークエンシングでゲノムのほぼ全長をカバーすることが出来た。ベンチトップ型の第2世代シークエンサーを用いた検討では、一度のシークエンシングで100倍以上のリード数が得られるが、得られる配列長は数100bp以下と短い、シークエンシング時間が1日程度と長い、またPCRによるバイアスが原因で多数のギャップがあるなどの問題が生じた。 以上より今回確立した手法は、従来のシークエンサーを用いた場合と比較すると非常に迅速であり、新規病原体のゲノムを同定するうえでは有用といえる。現在、国内外から原因不明感染症疑いの検体の提供を受けており、既知微生物に関して得られた手法を基に、今後は未知病原体の検出及びゲノム同定を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、第3世代シークエンサーを用いた、より迅速で安価な病原体同定法の確立および、第2・第3世代シークエンサーを併用した未知病原体の迅速な同定法の確立を目指した。まず、解読に適した配列長やDNA断片化法(ネビュライザー、ソニックプローブやハイドロシェアなど)を種々のバクテリアゲノムを用いて検討し、ハイドロシェアを用いた場合により配列長の分散度が低いDNA断片が得られることがわかった。また実際に、全ゲノムが既知のバクテリア3種(ゲノムサイズ約5.5Mbp、約5Mbp、約1Mbp)を用いてシークエンシングを行った。その結果、バクテリアゲノム精製方法によって結果が大きく異なり、MO BIO社のPowerSoilキットを用いた場合に最も良質な結果が得られることが明らかとなった。また、denovoアセンブリ方法を様々なソフトウェアを用いて検討したところ、ロングリード(3000 bp以上)の結果のみを用いてアセンブリした場合に最も効率的にアセンブリできることがわかった。特に1Mbpのバクテリアゲノムにおいては、わずか90分のシーケンシングで得られた約20000配列の情報のみでdenovoアセンブリにより全ゲノムの再構築に成功した。第2世代シークエンサーを用いて行ったゲノムシークエンスの場合と比較すると、今回用いた第3世代シークエンサーではより迅速、かつPCRによるバイアスなしに解読できることがわかった。このことから、病原体の検出には、リード数の多い第2世代シークエンサーを用い、ゲノム同定には第3世代シークエンサーを用いることで、より効率的に病原体検出・同定が行えるといえる。また、第3世代シークエンサーを用いたゲノム同定に最適なソフトウェア群のパイプライン化も進めつつある。以上より、研究課題に対して本年度は、概ね順調に研究計画が進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、主に原因不明感染症への感染症診断法の適用を行う。すでに様々な国内外の感染症研究者・医療関係者とコンタクトをとり、原因不明感染症の病原体検出の準備を進めつつある。所属する大阪大学微生物病研究所には、タイ感染症共同研究センターがある。そのため、タイの感染症研究者との繋がりがあり、タイで発生している原因不明の肺炎、脳炎などからの病原体を検出する計画を進めている。また国内においても、小児における劇症肝炎は原因不明な例が約30%もあることが指摘されており、生体肝移植後の再発例も多く、問題になっており、同大学附属病院と強固な連携体制を整えている。そのため、これらの共同研究先で発生している原因不明の肺炎、脳炎などから病原体の検出について第2世代シークエンサーを用いて取り組み始めている。本年度構築した、第3世代シークエンサーを用いた迅速な病原性微生物ゲノムの同定法を実際の例に適用することで、今後は新規・未知病原体の同定に取り組む。 また、臨床検体中には宿主や常在菌由来の核酸が大部分を占め、それらが病原体検出の弊害となっている。これまで、DNAaseによる処理やrRNAの除去等、サブトラクション法による除去を考えてきたが、除去は難しく、その後のPCRによる増幅がかかるため効率的であるとは言えなかった。今後は、サブトラクション法以外の方法についての検討も行う。
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