2014 Fiscal Year Annual Research Report
最高強度ミューオンビームによるミューオン・レプトンフレーバー非保存探索の新展開
Project/Area Number |
25000004
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
久野 良孝 大阪大学, 理学研究科, 教授 (30170020)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東城 順治 九州大学, 理学研究科, 准教授 (70360592)
佐藤 朗 大阪大学, 理学研究科, 助教 (40362610)
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Project Period (FY) |
2013-04-26 – 2018-03-31
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Keywords | μ-e転換過程 / 荷電レプトンフレーバー / ミューオン / 円筒ドリフトチェンバー / COMET実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、μ-e転換過程を探索するJ-PARCのCOMET Phase-I実験の検出器を製作し、COMET Phase-I実験を遂行することである。特に、COMET Phase-I実験の主たる検出器である円筒型ドリフトチェンバー(cylindrical drift chamber=CDC)と検出器ソレノイドを製作する。以下に平成26年度の研究実績の概要を述べる。平成26年度初めは、CDC試作機を製作し、宇宙線や放射線源を使って、CDCの検出効率と磁場効果やエイジング効果を調べ、最終仕様と設計を確定するように研究を進めていた。さらに、すでに仕様が決定していたCDC構造体、すなわちアルミニウムの端板(エンドプレート)と強化プラスチック(CFRP)でできた外筒の製作を平行して進めた。また、端板に19548個のワイヤ穴を加工する製作も行った。平成26年9月に高エネルギー加速器研究機構(KEK)の富士実験室でCDCのワイヤー張りを開始する予定であった。しかし、先に富士実験室を使用していたKEKのBELLE-IIグループのCDCのワイヤー張りが大幅に遅れたことがわかり、富士実験室を使用できず、我々のCDCワイヤー張りを平成26年度から平成27年度に変更しないといけない必要が生じた。これにより、不幸中にも最終設計を確定するまでに、更に検討を重ねられることになった。それで、11月には東北大学の電子加速器からの電子ビームを使って、いくつかの試験を繰り返した。この東北大学のビーム試験の解析は、アノードワイヤの径とカソードワイヤの径を決定するために重要であった。しかし、この全体のパラメータを確定するためには、最終仕様に沿ったCDC試作機を作り、その性能を実験的に確認する必要がある。これらの判断に基づき、試作機製作のために追加配分申請を11月末に提出した。追加配分を申請した理由はこの予算は当初含められていなかったからである。この追加配分は採択され、最終仕様の試作機を製作し年度末までに試験を開始することができた。最終仕様試作機は非常に有用であった。使用するガスについては、引き続きこの試作機を使って検討を進める。平成27年3月には端板と外筒を組み立て、KEKの富士実験室に運び込んだ。その時点で富士実験室は使用できるようになっており、ワイヤ張り治具を組み立て、CDC構造体は平成27年5月からのワイヤ張り開始の準備ができている。検出器ソレノイドについては、超伝導線を購入した。また、検出器ソレノイドのコイル製作の2年契約の入札を行った。平成27年度末までに完成する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. CDCの設計を再検討し新しい仕様を確立することができた。シミュレーション計算だけでなく、試作機の性能に基づいて性能評価をすることができた。それらの結果として、以下の設計変更が確定された。すなわち、(1) CDCのアノードワイヤ径は25ミクロンに、カソードワイヤ径は126ミクロンに決定した。これらは、カソードワイヤ上の電場の大きさによるエイジング効果、アノードワイヤ上の電場の大きさによる電子アバランシュ増幅効果、電子ドリフト速度、位置分解能、ヒット検出効率などについて検討した結果である。この値は、KEKのCOMET Phase-I技術評価委員会の答申とも概ね一致している。(2) CDCの構造体である10mm厚アルミニウムの端板の加工が完成した。上流側端板と下流側端のそれぞれに19548個のワイヤーを張るための穴を精密加工であけた。(3) CDCの構造体である強化プラスティック(CFRP)からなる外筒が完成した。厚みは5mmであり内側に導電性のアルミ箔を貼り付けてある。(4) エンドプレートと外筒を組み上げ構造体を作成した。(5) スイス国のPaull Sherrer Institute (PSI)研究所で、ミューオンのアルミニウム原子核捕獲後の陽子放出を測定した。これを使って、CDCの内筒の適切な厚みを評価した。(6) CDCのノイズヒットをシミュレーションで評価し、track findingやtrackingの計算コードを開発した。 2. 検出器ソレノイド磁石の設計と製作を開始した。(1) 検出器ソレノイドに必要な超伝導線を製作した。(2) 検出器ソレノイド冷却に必要なクライオクーラーを1台購入した。(3) 検出器ソレノイドコイルを製作するために、2年契約の入札を行った。設計とコイル製作を行い。平成27年度末までにコイルの製作が完了する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策は以下のようである。まず、平成26年度末にCDCの構造体である2枚のエンドプレート(端板)と外筒はフランジ構造を通して組み立てられ、KEKの富士実験室にCDC構造体は運び込まれている。ワイヤ張りの作業架台と治具も完成しているので、平成27年度春からCDCワイヤ張り作業を始める。ワイヤー総数は19548本であり、その作業は約6ヶ月かかる。1本のワイヤ毎に張り作業が終わった後にそのテンションを測定する。これと平行して、内筒の0.5mm厚CFRPの設計と製作を進める。ワイヤ張りが完了した後にCDCの内筒を取り付けて完成となる。その後、CDCをJ-PARCに輸送し、平成28年春以降は宇宙線を使って、CDC実機の試験を行う。CDCのワイヤ張りは当初より遅れたが、スケジュール的に大きな問題は発生していない。CDCのトリガーカウンターについて、九州大学COMETグループが準備している。チェレンコフカウンターとシンチレーターの対となる構造をしている。平成26年度には中性子による性能劣化についても試験し、当初計画していたMPPCを使用できないことが判明した。現在光電子増倍管読み出しを検討している。実機の製作・試験が平成27年度に行われる。また、バックグラウンドによるトリガーカウンターのヒット係数率が高いので、CDCのヒットを使ったレベル1トリガーを検討している。これを含んだトリガーボードを設計して製作する。 中国グループは、CDCの読み出し装置の大量生産を平成27年度5月ごろから開始する。読み出し装置に使用するプリントサーキット(PCB)カードやASICチップは日本で購入し中国に輸送済みである。平成28年春からのCDCの宇宙線試験を予定しているので、今年度中には大量生産と全台の試験を終える予定である。 英国グループが準備しているデータ読み出し(DAQ)シムテムと連結する試験が平成27年度3月に行われた。これは、CDC読み出し装置とGLIBと呼ばれるDAQシステムと繋げて、テストされた。テストは無事に成功し、データの読み出しには問題がないことが判明した。実際の実験の係数率に応じて、FPGAのプログラムを書き直してデータ量をコントロールする必要がある。また、CDCの解析ツールであるtracking codeについては、大阪大学グループとIHEPグループで共同で開発しているが、track fitting codeとtrack finding codeはほぼ完成している。全体の実験シミュレーションをおこなうために、COMET実験グループの汎用解析プログラムICEDUSTにCDCや測定器ソレノイドの構造情報を入れる。また解析プログラムもICEDUSTに入れる作業を行う 検出器ソレノイド磁石については、必要な超伝導線材は購入されている。ソレノイドコイルの設計と製作については、2年契約の入札を終えており、平成27年度末までには完成し納品されることになっている。クライオスタットの設計もこれに含まれる。コリメータを設置するビームコリメータソレノイド磁石の設計も行われている。シミュレーション計算を行っており、ビーム粒子によるCDCのノイズヒットの量を予測した。これらを抑制するために、コリメータやシールドを設計する。 九州大学グループでは平成26年1月から1名の博士研究員、大阪大学グループでは平成26年4月から1名さらに、平成27年2月から1名の特任助教を採用した。また、特任研究員も1名雇用した。これらのCDCの設計と建設およびCOMET Phase-I実験の遂行に係わっていく。新たに雇用した人員もフル稼働して、研究を進めている。
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