2015 Fiscal Year Annual Research Report
極低温・超高分解能レーザー光電子分光の開発と低温超伝導体の超伝導機構の解明
Project/Area Number |
25220707
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
辛 埴 東京大学, 物性研究所, 教授 (00162785)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石田 行章 東京大学, 物性研究所, 助教 (30442924)
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Project Period (FY) |
2013-05-31 – 2018-03-31
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Keywords | 光電子分光 / レーザー / 超電導 / 超低温 / 高分解能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、世界の追随を許さない測定温度500mK、最高分解能50μeVの未踏性能を持つヘリウム3クライオスタット搭載型の角度分解光電子分光装置を開発し、エキゾチック低温超伝導体が持つ超伝導ギャップの直接観測を通して、超伝導転移温度の飛躍的向上への指針確立を目指す。プロジェクト成功への鍵となる主要パーツは、ヘリウム3クライオスタット、光電子アナライザー、磁気シールド搭載真空チャンバーである。H27年度の経費で購入した主な物品はそのうちの超高分解能光電子分光器(H26年度の繰越)であり、以下の極限性能の達成に成功した。 アナライザー内に設置される光電子スリットに対し、垂直方向に飛び込む光電子をも収集し、試料を固定したままでの運動量空間イメージングを実現する新型電子レンズを搭載した。50μeVの分解能を達成するために、光電子分光器スリットのコーティング、光電子分光器の静電半球のコーティングを綿密に行う事により、高分解能が達成することが明らかになった。 また、その性能を最大限に発揮する検知器を選定すると共に、電子レンズ制御とそれをリンクするソフトウェアを共同開発した。より具体的には、先進性を加味して、従来のCCDカメラではなく、超高分解能sCMOSカメラを検知器として導入し、さらにはペルチェ冷却をも整備した。これにより、暗電流と読み取りノイズを極限まで切り捨てた、高速フレームレート光電子カウンティングシステムが構築でき、解像度20μeVクラスでの測定技術を確立することが出来た。 なお、 高性能光電子分光器は当初予定ではH27年度に購入予定であったが、H26年度に予算の前倒しによる研究の加速を計画した。しかし、高分解能を目指し、高度な技術開発を行う事うために、H27年度に予算の繰越を行った(結果的に当初予定どおりのH27年度納入になったので、計画の遅れはない)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
装置開発を掲げる本プロジェクトにおいて最重要となる装置全体を俯瞰する設計図がキックオフ初年度の早い段階で完成している。また、具体的装置性能を掲げた上で、各主要パーツの極限的性能の達成へ向けて、同時並行的に開発をスタートできた。磁気シールド搭載真空チャンバーの設計及び開発は当初の計画通りに推進でき、それを具現化した実際の性能特性は予想を遥かに上回った。ヘリウム3クライオスタットでは、ヘリウム4液体で満たす1Kポットを通過して先に伸び、ヘリウム3ガスの流れ道となるキャピラリーの最適化を繰り返すことで、設計にほぼ近い冷却能力を達成できている。 一方、光電子分光器の分解能を上げるために、スリットと、静電半球のコーティングの均一性が大事であることを明らかにした。更に、光電子分光器の高分解能に対応する検知器とソフトウェア開発では、従来のCCDカメラよりも、感度、角度解像度、エネルギー解像度、及びフレーム率の主要項目全てにおいて劇的な改善をもたらすsCMOSカメラの導入した。その上で、光電子画像処理の高速化を成し遂げることで、極限的エネルギー分解能測定を実現しうる装置環境を整えた。光電子アナライザーに関しては、半球型アナライザー内に設置された電子レンズの調整を進めることにより、角度分解光電子分光イメージングに更なる信頼性をもたらした。 以上のことから、極低温・超高分解能レーザー光電子分光の実現に向けて、主要パーツの当初設定目標を上回る極限化が進んでおり、本プロジェクトは今後、予想以上の成果が見込まれる。特に、新型検知器は、光電子分光における将来の標準型高分解能検知器となり得るものが開発できた。
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Strategy for Future Research Activity |
角度分解光電子分光システムの完成に必要な主要パーツ開発は、それぞれ、新しい開発が必要なものばかりであり、最先端な技術のかたまりである。今後の計画としては、前年度に引き続き、(1)建物電源とのアース接続の最適化、(2)光源となるレーザーの繰り返し数及びフォトン強度とそれに伴うクーロン反発由来のスペースチャージ効果の抑制、(3)アナライザー冷却を含めたチャンバー内のサーマルシールドの機能性確認と試料到達温度の極限達成を行っていく。(4)また、低エネルギーレーザーを用いる実験ならではの低運動エネルギー光電子の角度分解制御の難しさから、光電子の軌道制御を担う電子レンズの電圧調整を綿密に行う必要が有る。(5)一方、従来のCCDカメラからsCMOSカメラへと検知器システムを導入する。(6)更に、高速フレームレート測定を実現するために、検出面に飛び込む光電子による感光強度と光電子数とを関係づける従来の観測原理を脱して、光電子一つと感光イベントを一対一対応させるパルスカウンティングシステムを実測定原理として導入する。感光強度を採用する前者の光電子積算では、感光強度がMCPのエネルギー方向にぼやけるため、約100μeVレベルに分解能が制限される。一方後者の感光イベントを見積もるパルスカウンティング測定では、その5分の1の約20μeVレベルまで解像度が向上する。両者の微小なエネルギー差は、通常の光電子分光測定では問題とならないが、我々が以前達成した世界最高分解能(70μeV)を飛躍向上させる上で極めて重要となる。(7)一方、高性能のデータ処理システムの開発を新型検知器のテストを重ねた上で、ソフトウェア開発にフィードバックさせるつもりである。
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Research Products
(33 results)
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[Journal Article] Electronic structure and relaxation dynamics in a superconducting topological material2016
Author(s)
Madhab Neupane, Yukiaki Ishida, Raman Sankar, Jian-Xin Zhu, Daniel S. Sanchez, Ilya Belopolski, Su-Yang Xu, Nasser Alidoust, M. Mofazzel Hosen, Shik Shin, Fangcheng Chou, M. Zahid Hasan, Tomasz Durakiewicz
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 6
Pages: 22557(1-7)
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Coexistence of a pseudo-gap and a superconducting gap for the high-Tc superconductor LSCO using photoemission spectroscopy2016
Author(s)
T.Yoshida, W.Malaeb, S.Ideta, D.H.Lu, R.G.Moor, Z.-X.Shen, M.Okawa, T.Kiss, K.Ishizaka, S.Shin, Seiki Komiya, Yoichi Ando, H.Eisaki, S.Uchida, A.Fujimori
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Journal Title
Physical Review B
Volume: 93
Pages: 014513(1-5)
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Spin polarization and texture of the Fermi arcs in the Weyl Fermion semimetal TaAs2016
Author(s)
Su-Yang Xu, Ilya Belopolski, Daniel S Sanchez, Koichiro Yaji, Zhujun Yuan, Chenglong Zhang, Kenta Kuroda, Nasser Alidoust, Hao Zheng, Chi-Cheng Lee, Shin-Ming Huang, Chuang-Han Hsu, Horng-Tay Jeng, Arun Bansil, Aris Alexandradinata, Titus Neupert, Takeshi Kondo, Shik Shin, Hsin Lin, Shuang Jia, M Zahid Hasan
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Journal Title
Physical Review Letter
Volume: 116
Pages: 09680 (2016)
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Gigantic surface lifetime of an intrinsic topological insulato2016
Author(s)
Madhab Neupane, Su-Yang Xu, Y. Ishida, Shuang Jia, Benjamin M. Fregoso, Chang Liu, Ilya Belopolski, Guang Bian, Nasser Alidoust, Tomasz Durakiewicz, Victor Galitski, S. Shin, Robert J. Cava, M. Zahid Hasan
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Journal Title
Physical Review Letter
Volume: 115
Pages: 116801(1-5)
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Quadratic Fermi node in a 3D strongly correlated semimetal2015
Author(s)
Takeshi Kondo, M Nakayama, R Chen, JJ Ishikawa, E-G Moon, T Yamamoto, Y Ota, W Malaeb, H Kanai, Y Nakashima, Y Ishida, R Yoshida, H Yamamoto, M Matsunami, S Kimura, N Inami, K Ono, H Kumigashira, S Nakatsuji, L Balents, S Shin
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 6
Pages: 10042(1-8)
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Temperature-dependence of magnetically-active charge excitations in agnetite across the Verwey transition2015
Author(s)
M. Taguchi, A. Chainani, S. Ueda, M. Matsunami, Y. Ishida, R. Eguchi, S. Tsuda, Y. Takata, M. Yabashi, K. Tamasaku, Y. Nishino, T. Ishikawa, H. Daimon, S. Todo, H. Tanaka, M. Oura, Y. Senba, H. Ohashi, S. Shin
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 115
Pages: 256405 (1-5)
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] 偏光可変レーザースピン分解光電子分光によるBi(111)表面電子状態の研究2016
Author(s)
矢治光一郎, 黒田健太, 豊久宗玄, 中山充大, 石田行章, 原沢あゆみ, 渡部俊太郎, Chuangtian Chen, 小林功佳, 辛埴, 小森文夫
Organizer
日本物理学会第71回年次大会(2016年)
Place of Presentation
東北学院大学泉キャンパス(宮城県・仙台市)
Year and Date
2016-03-19 – 2016-03-22
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[Presentation] レーザースピン分解光電子分光で開拓する光電子スピン制御2016
Author(s)
黒田健太, 矢治光一郎, 中山充大, 豊久宗玄, 原沢あゆみ, 渡部俊太郎, C.-T. Chen, 石田行章, 近藤猛, 小森文夫, 辛埴
Organizer
日本物理学会第71回年次大会(2016年)
Place of Presentation
東北学院大学泉キャンパス(宮城県・仙台市)
Year and Date
2016-03-19 – 2016-03-22
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[Presentation] 角度分解光電子分光で観測するパイロクロア型イリジウム酸化物の電子構造2016
Author(s)
中山充大, 近藤猛, Zhaoming Tian, Mario Halim, 石川洵, Walid Malaeb, Balleile C dric, 黒田健太, 冨田崇弘, 松波雅治, 出田真一郎B, 田中清尚, 井波暢人, 組頭広志, 小野寛太, 木村真一, Leon Balents, 中辻知, 辛埴
Organizer
日本物理学会第71回年次大会(2016年)
Place of Presentation
東北学院大学泉キャンパス(宮城県・仙台市)
Year and Date
2016-03-19 – 2016-03-22
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[Presentation] 高分解能レーザーARPESによるBaドープKFe2As2のゾーンコーナーのフェルミ面における超伝導ギャップの異方性22015
Author(s)
山本遇哲, 岡崎浩三, 大田由一, 木方邦宏A, 李哲虎A, 伊豫彰A, 永崎洋A, 深澤英人B, 小堀洋B, Xiaoyan WangC, Chuangtian ChenC, 渡部俊太郎D, 小林洋平, 辛埴
Organizer
日本物理学会2015年秋季大会
Place of Presentation
関西大学千里山キャンパス(大阪府・吹田市)
Year and Date
2015-09-16 – 2015-09-19
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[Presentation] レーザー角度分解光電子分光によるFeSeの軌道秩序状態における超伝導ギャップ異方性の観測2015
Author(s)
橋本嵩広, 大田由一, 山本遇哲, 鈴木裕也, 下志万貴博, 渡部俊太郎, C.-T.Chen, 綿重達也, 小林遼, 笠原成, 松田祐司, 芝内孝禎, A. Bohmer, T. Wolf, P. Adelmann, C. Meingast, H. v. Loehneysen, 岡崎浩三, 辛埴
Organizer
日本物理学会2015年秋季大会
Place of Presentation
関西大学千里山キャンパス(大阪府・吹田市)
Year and Date
2015-09-16 – 2015-09-19
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[Presentation] 角度分解光電子分光によるFe(Se,S)における軌道秩序相の決定2015
Author(s)
鈴木裕也, 下志万貴博, 園部竜也, W. Malaeb, 辛埴, 綿重達哉, 小林遼, 笠原成, 芝内孝禎, 松田祐司, 石坂香子
Organizer
日本物理学会2015年秋季大会
Place of Presentation
関西大学千里山キャンパス(大阪府・吹田市)
Year and Date
2015-09-16 – 2015-09-19
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[Presentation] レーザー角度分解光電子分光によるIr1-xPtxTe2の超伝導ギャップの直接観測2015
Author(s)
大槻太毅, 溝川貴司, N.L. Saini, 大田由一, 山本遇哲, 橋本嵩広, 岡崎浩三, 辛埴, 藤森淳, 鳥山達矢, 小西健久, 太田幸則, 卞舜生, 工藤一貴, 野原実
Organizer
日本物理学会2015年秋季大会
Place of Presentation
関西大学千里山キャンパス(大阪府・吹田市)
Year and Date
2015-09-16 – 2015-09-19
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[Presentation] Ln(O,F)BiS2超伝導体のレーザー角度分解光電子分光2015
Author(s)
大田由一, 岡崎浩三, 山本遇哲, 山本貴士, 渡部俊太郎, C.-T.Chen, 長尾雅則, 綿打敏司, 田中功, 高野義彦, 辛埴
Organizer
日本物理学会2015年秋季大会
Place of Presentation
関西大学千里山キャンパス(大阪府・吹田市)
Year and Date
2015-09-16 – 2015-09-19
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[Presentation] α-YbAl1-xMnxB4の電子構造2015
Author(s)
田久保耕, 津山智之, 平田靖透, Bareille Cedric, 辛埴, 山本真吾, 松田巌, 伊奈稔哲, 新田清文, 水牧仁一朗, 鈴木慎太郎, 松本洋介, 中辻知, 和達大樹
Organizer
日本物理学会2015年秋季大会
Place of Presentation
関西大学千里山キャンパス(大阪府・吹田市)
Year and Date
2015-09-16 – 2015-09-19
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