2013 Fiscal Year Annual Research Report
放射線による生体分子損傷の緩和的定着に関する分光研究
Project/Area Number |
25241010
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (A)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
鵜飼 正敏 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80192508)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横谷 明徳 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究主席 (10354987)
島田 紘行 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30542112)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | DNA放射線損傷 / その場修復 / 高速電子線エネルギー損失分光法 / 液体分子線 / 時間相関分光法 |
Research Abstract |
生体分子、特にDNAの放射線損傷の修復過程には、修復酵素タンパク質による酵素修復とともに、より迅速な自己組織的修復である“その場修復”の存在が想定されている。これはDNA損傷の定着と経路を共有しつつ択一的に放射線照射前の安定状態へと回帰する熱力学的緩和過程と捉えられ、その時間発展的理解は、そのままDNA損傷の発生メカニズムの理解につながる。そこで本研究では、この放射線照射直後のDNA分子の異常な非平衡状態(構造変化)の発生と、その熱力学的緩和過程を明らかにすることを目的とする新規の分光学的研究方法の開発を行う。すなわち、本研究は、原子・分子分光学と湿潤生体系の相異なるアプローチを総合し、前駆課題にて開発したシンクロトロン放射光による液体分子線・光電子分光法を格段に発展させるとともに、新たに高速電子線エネルギー損失分光法を開発して、選択的な超励起に開始される生体分子の放射線損傷の新側面を開拓するものである。 上記の目的に基づき、生体分子への溶媒和により規定された構造に特有な放射線誘起構造変化をサイト選択的に特定して観測するために、液体分子線とシンクロトロン放射光による既存の光吸収分光・光電子分光法を真空排気機構等の装置の整備を行うことによりさらに発展させた。これにより、水溶液中の異なる酸・塩基イオン強度のもとでのヌクレオチドのX線吸収スペクトル変化を見出した。また、液体のX線光電子分光実験を開始し、水溶液中のヌクレオチドから放出される光電子・オージェ電子の測定により放射線と相互作用する分子内の原子の特定について予備的な成果を得た。また、X線吸収とは相補的であり、かつ、近似的に白色電磁波照射とみなせる高速電子線照射における内殻励起・イオン化を特定して測定するための新規装置について、その心臓部である電子衝突分光器を製作した。試料調製方法についても整備と検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画調書ならびに交付申請書に記した通り、本年度の目標はSPring-8放射光施設における既開発装置を用いた研究実験と新規研究方法の開発である。研究実績の概要に記した通り、前者に対しては新規の研究成果を原著論文、解説論文として公表するとともに、国内外の研究集会にて選定口頭講演を依頼されるなどの進捗を見ており、後者に関しても新規分光装置のハード面の製作、並びに試料調製法の整備と検討を行うことにより、本課題の実施期間内に研究装置として稼働し成果を上げる見通しを得た。 以上により、H25年度における本研究課題の達成状況は、計画調書に照らしておおむね順調に進展していると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度の研究課題の推進方法は計画調書の通り、SPring-8放射光施設における研究実験と新規研究方法の開発である。前者に対しては研究分担者、研究協力者とともにさらに新規の成果を蓄積し原著論文、ならびに研究集会にて発表する。後者に関しては新規分光装置の計測・制御等ソフト面の開発・整備を行うことにより、実施期間内の研究装置として稼働させる。 なお、H26年度においては本課題の時間相関分光法の開発の必要のためドイツ国カッセル大学物理学科と国際研究者交流を行う予定である。
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