2015 Fiscal Year Annual Research Report
ピロリ菌由来発がん性足場タンパク質CagAが脱制御する細胞内シグナルの統合的理解
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25250016
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畠山 昌則 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40189551)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 癌 / 感染症 / ピロリ菌 / 胃癌 / SHP2 / ホスファターゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
cagA 陽性ヘリコバクター・ピロリは胃上皮細胞に付着した後、IV型分泌装置を用いて発がんタンパク質CagA を細胞内に注入する。細胞内に侵入したCagAは宿主細胞キナーゼによりチロシンリン酸化を受けた後、発がん性ホスファターゼSHP2 と特異的に結合・脱制御し、がん化を促す増殖・運動異常を引き起こす。 1. ピロリ菌CagAを脱リン酸化/不活化する宿主細胞内ホスファターゼの単離・同定 今年度の研究から、 SHP2ホモログであるSHP1もCagAと結合することが明らかとなった。しかしながら、CagA-SHP2相互作用とは異なり,CagA-SHP1相互作用はCagAのチロシンリン酸化を必要としなかった。In vitroホスファタ―ゼアッセイにより、SHP1 はCagAホスファターゼであることが直接示され、さらにCagAとの複合体形成によりSHP1 の触媒活性が誘導されることを見出した。CagAとSHP1を共発現させた細胞では、 CagAのチロシンリン酸化レベルが著しく低下するともに、チロシンリン酸化依存的なCagA の発がん生物活性が抑制された。 2. CagAの分子多型と発がん活性の連関 欧米型CagAはEPIYA-Cセグメントの繰り返しで特徴付けられる分子多型を有する。最近の臨床疫学的調査から、EPIYA-Cを2個以上有するCagA産生ピロリ菌感染は胃がんリスクを増大させることが示されている。今年度の研究により、欧米型CagAのEPIYA-Cセグメント数が1から2に増えることで、SHP2結合親和性が100倍以上増強することを見出した。このSHP2結合能の著しい増強を反映し、EPIYA-Cセグメントを2個以上保有するCagA発現胃上皮細胞は単一のEPIYA-Cセグメントを保有するCagA発現細胞に比較してはるかに強力な組織浸潤能を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CagA を脱リン酸化する宿主細胞由来ホスファターゼの同定はCagA の発がん活性抑制の観点からもきわめて重要な意義を持つ。しかしながら、CagA脱リン酸化酵素に関する手掛かりは、その存在の有無を含め、これまで全く得られていなかった。平成27年度の研究により、ピロリ菌CagAを脱リン酸化/不活化する宿主細胞内ホスファターゼとしてSHP1を同定することに成功した。この事実から、胃上皮細胞内における SHP1とSHP2の相対的な発現レベルがピロリ菌 CagAの発がん活性を規定すると考えられる。CagAタンパク質のSHP2結合部位は多様な形をとることが知られており、中でもEPIYA-Cセグメントと呼ばれる構造の数が胃がんの発症に関与している可能性が分子疫学調査から示されていた。しかしながら、CagA EPIYA-Cセグメント数と胃がんをつなぐ分子基盤はこれまで不明であった。平成27年度の研究成果から、EPIYA-Cセグメントの重複によってCagAのSHP2へ結合する強度が飛躍的に増強することが明らかにされ、ピロリ菌CagAが胃発がんの明確なリスク因子となる分子基盤が明らかにされた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に引き続き、ピロリ菌CagAが細胞内標的とするSHP2の発がん基質としてのparafibrominの役割を明らかにする研究を進める。とりわけ、ピロリ菌がんタンパク質CagAが脱制御するSHP2のチロシン脱リン酸化基質として同定した核内PAF複合体構成分子parafibrominのチロシンリン酸化依存的な転写制御機構を検討する。既に、parafibrominをリン酸化するチロシンキナーゼを同定することに成功し、parafibrominがWnt標的遺伝子の活性化に加え、Hedgehog標的遺伝子群やNotch標的遺伝子群、さらにはHippo標的遺伝子群誘導にも深くかかわっていることを明らかになりつつある。そこで、parafibrominが複数の並走する細胞内シグナル経路をチロシンリン酸化/脱リン酸化依存的に調節・制御する分子機構を明らかにする。また平成27年度に樹立に成功した、リン酸化抵抗性parafibrominの誘導発現マウスを用い、parafibrominの脱制御と発がんとの関連を個体レベルで検討する。
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