2014 Fiscal Year Annual Research Report
聴覚障害学生の視線特性分析に基づいた利用者中心の字幕開発研究
Project/Area Number |
25282063
|
Research Institution | Osaka Ohtani University |
Principal Investigator |
大倉 孝昭 大阪大谷大学, 教育学部, 教授 (50223772)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金澤 貴之 群馬大学, 教育学部, 教授 (50323324)
中野 聡子 広島大学, アクセシビリティセンター, 特任講師 (20359665)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 聴覚障害学生 / 字幕 / 視聴者選択方式 / ストリーミング・ビデオ / 吹き出し方式 |
Outline of Annual Research Achievements |
聴覚障害学生の特性に着目した,ストリーミング・ビデオに付与する利用者中心の字幕について研究を進めている。視聴時の共感度を高めるため,文字サイズ,色,吹き出し,イラストなどの付加情報によって字幕の装飾を行う方式を提案している。視聴者がこれらの情報を選択表示する際,Web技術とその意味付けをどのように対応付けるか検討し,遷移表としてまとめて実装した。(JSET全国大会で発表) また、全国5大学の障がい学生支援室、支援センターの協力で、両耳90db以上の聾学生(特別支援学校在籍経験者)21名の実験参加者を得た。TVで放映されたコントの番組(出演者、上映権者に許諾を得た)を開発した字幕提示システムを用いて閲覧・評価する心理学実験を7月から12月に実施した。1)視線計測実験、2)同じ番組を6種類の字幕で視聴・評価する実験を行った。詳細な分析を実施中である。 現時点で、「聾学生は、大きく文字優位タイプと画像優位タイプに分けられる」「文字強調としては、文字着色よりも、文字サイズを変更する方式が好まれる」「イラストを付加情報として提示する方式はあまり支持されない(情報量が多すぎて疲れる)」「早期教育段階から特別支援学校で過ごした時間が長いほど、(日本語ではなく)手話でものを考える人が多い」「ほぼ全員が、吹き出し型字幕、字幕と付加情報の表示・非表示を視聴者が選べるようにすべき」と評価していることが判った。従来方式(画面中央下部に矩形の黒背景白色文字)字幕では、時間をかけて文字を読んでいる様子がうかがえた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
利用者選択方式の字幕視聴システムが作成された。全国の障がい学生支援拠点校に応援を求めたところ、21名の聾学生から実験参加協力を得られた。本課題の採択以前に予備実験(聾者・難聴者9名)を実施しているが、統計的に分析・検証をするためには、サンプル数が少なすぎるという指摘を受けていた。26年度の実験で、サンプル数の問題点を解消できた。また、両耳90db以上の聾学生(文科省の調査でも全国的に数は少ない)から、21名もの協力を得てデータを取得した事例は、過去にもほとんど例がなく、貴重なデータを得ることができた。研究目的として掲げている「手話で考えることが得意なグループと日本語で考える方が得意なグループ間での違い」が早期教育時期における聴覚特別支援学校在籍時間に関連していることが明らかになった。 吹き出し方式(話者の顔近くに発話文字列を提示)は、聾学生に概ね受け入れられた。 上記の点で本課題は「おおむね順調に進展している」と自己評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
26年度には、持ち運びが可能な視線計測実験装置を取得した。聴覚障害学生(特に聾者に限定)が複数在籍する全国の大学の「障がい学生支援室」に協力を求め、実験装置を運んで、21名の実験参加者により実験を行った。2種類のコンテンツ(おのおの約2分)について、6種類の提示法で字幕を提示・操作してもらい、アンケート、コンテンツ視聴時の視線の動きを記録した。現在、それを分析・論文を作成している。 アンケート結果の集計から、「文字優位グループ」と「画像優位グループ」が存在することが判ってきた。そこで、本年度は、実験対象者をもう少し広げて人数を増し、「手話対話者向けモデル」、「非手話対話者向けモデル」の検討を行う。 これまでの実験・議論で、言語力が一定以上身に付いている聴障者(大学生)の場合、コンテンツの内容を把握するには、文字(縮約された情報)の方が読み取りスピードが速く、共通理解を得易いという点で、聴者と同じではないかとの指摘を得ている。つまり、文字優位グループは、「視聴しているビデオの内容を理解して聴者と共感を得る」目的であれば、文字情報(従来型字幕)だけでも一定の満足感が得られるので、付加情報に対するニーズがあまり高くないのではないかと思われる。このことは、視聴しているビデオに対する当事者のニーズと密接に関連している。そこで、文字優位グループの付加情報ニーズ(文字だけでは不十分な)を探ることと、言語運用能力の低い協力者を得るため検討も行う。
|
Causes of Carryover |
計画では、視線計測実験で取得したデータを大阪大谷大学(代表者の本務校)と広島大学(分担者)で共有し、データ分析ソフトを複数ライセンス取得してそれぞれの手元で解析する予定であった。研究倫理審査を通しておく必要があると考えていたので、25年度から進めていた実験計画について、学内(学長・運営委員会)に研究倫理審査組織をつくって欲しいとお願いしていた。しかし、「必要と考える研究者間でやればよい」との判断で、大学としては取り上げられなかった。そこで、26年7月の実験開始までにはなんとかなるだろうという見通しで、有志の協力の下、研究倫理審査委員会の立ち上げを進めた。ところが、学内各所から「性急だ」「納得できない」などの声が出て、実験開始には間に合わなかった。そのため、遡及して審査を受ける決断をし、責任は代表者がもつことにして実験を進めた。分析ソフトのライセンス取得を27年度に先送りしたためである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度から、中野が広島から大阪(民博)へ異動し、連携もとり易くなったので、ライセンスを取得し、取得したデータの詳細な分析・評価を実施する。
|