2013 Fiscal Year Annual Research Report
岩陰遺跡の環境考古学―先端手法による生業と古環境の高精度復元―
Project/Area Number |
25282070
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
本郷 一美 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (20303919)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 昌久 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 教授 (70210482)
那須 浩郎 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教 (60390704)
米田 穣 東京大学, 学内共同利用施設等, 教授 (30280712)
姉崎 智子 群馬県立自然史博物館, その他部局等, 研究員 (50379012)
堤 隆 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70593953)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境考古学 / 生業 / 岩陰遺跡 / 弥生時代 / 古墳時代 / 縄文時代 |
Research Abstract |
本研究の主目的は、内陸部の岩陰遺跡における先史時代の環境と人間活動を、生物考古学(環境考古学)の手法を用いて総合的に研究することである。研究の対象として、長野県小海町の天狗岩岩陰遺跡を選んだ。この遺跡では、1990年代および2011-2012年に計3回の発掘調査が行われている。後者は本研究の主要メンバーを含む調査隊による、科研費による調査であり、本研究はその継続・発展としてのプロジェクトである。 これまでの調査で弥生時代前期から古墳時代前期にかけての土器片、石器、鹿角製品、炉跡の他、多数の獣骨と炭化種子が出土した。2013年度の調査では、発掘区を広げるとともに一部を深く掘り下げ、縄文時代の文化層があるかどうかを確認することを目的とした。出土した炭化材および獣骨を用いてC14年代測定を実施し、縄文時代後期相当の年代を得た。これによって、この岩陰が縄文時代から使われていたことが確かめられた。 調査では、出土遺物の考古学的な分析、動物考古学・民族考古植物学の手法による食性の研究、安定同位体分析を用いた古環境と食性の研究を実施した。これらにより、高精度の古環境情報を有効に抽出するとともに、人工遺物や遺構に関する考古学的な知見とあわせた統合的な研究をすすめている。 植物遺存体に関しては、弥生時代の灰層のフローテーションにより、炭化したイネ籾を確認した。前年度までに弥生時代の炭化米を確認していたが、今年度の調査により、イネが籾付の状態で岩陰内に持ち込まれていることが明らかになったことは重要である。このことは、弥生時代に岩陰周辺でイネが栽培されていたか、佐久平から持ち込まれていたか、のどちらかの可能性を示す。また、イネ以外にも、雑穀のアワやドングリ、オニグルミなどの堅果類も出土しており、多角的な植物資源の利用があった可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度の目的の1つであった、縄文時代の文化層の確認ができた。また、発掘区を広げることで、1990年代に試掘調査を行った際の観察所見や、当時検出されていた灰層の広がりを把握することができた。発掘区の一部を深く掘り下げ、層序の確認を行うとともに、採取した炭化物のC14年代測定を実施し、その結果を、2014年度以降の発掘にフィードバックしながら進めることが可能になった。動・植物遺存体の分析は順調にすすんでおり、炭化コムギ、イネの他に弥生時代のイネ籾が検出されたことは重要である。今後、平野部の遺跡との植物利用の比較検討も行う。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度-2015年度もそれぞれ2週間程度の発掘調査を計画している。発掘区が深くなったことで崩落の危険があり、2014年度は安全対策のため、発掘区を広げつつ縄文時代の文化層の確認を進める。また、昨年までに出土した遺物の中に、縄文時代末期に属する可能性がある土器片等が含まれており、それらの年代の再検討を行う。 2011-2012年度に出土している遺物も含め、これまでに天狗岩岩陰遺跡から出土した遺物の整理と出土層位の確認を進める。動物骨、炭化種子、炭化材の分析結果をもとに、当時の環境や植生を検討するとともに、遺跡の性格(一時的な狩猟キャンプとして使用されたものか、など)を考察する。環境考古学的な分析結果と遺物・遺構に関する考古学的検討とを統合し、解釈を進める。 イネ籾が検出されたことは、弥生時代にイネが佐久平から持ち込まれていたとしても、数日ではなく長期間の岩陰利用があった可能性を示す重要な証拠であり、山間部の遺跡と平野部の遺跡との関係に関する考察を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品(分析用薬品など)の購入が予想よりやや少なかったため 今年度の分析のための消耗品購入にあてる。
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Research Products
(19 results)