2014 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル時代の人の移動の自由と管理ー社会保障制度を中心にー
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25283002
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
高橋 和 山形大学, 人文学部, 教授 (50238094)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北川 忠明 山形大学, 人文学部, 教授 (00144105)
宮島 美花 香川大学, 経済学部, 准教授 (70329051)
菅原 淳子 二松學舍大學, 国際政治経済学部, 教授 (40196697)
松本 邦彦 山形大学, 人文学部, 教授 (40241682)
丸山 政己 山形大学, 人文学部, 准教授 (70542025)
中島 宏 山形大学, 人文学部, 准教授 (90507617)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 移民 / 社会保障 / 越境地域協力 / 人権 / 市民参加 / 移民社会 / 年金制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、平成25年に続き、現地での調査と資料収集を重点的に行い、韓国、中国、フランス、ブルガリア、大阪で調査を行うことができた。また日本国内においても、アンケート調査、ヒアリングを実施することができた。 ライフヒストリーの聞き取り調査という手法を用いて、統計的な数字では見えなかった移民社会の実態の一部が明らかになったことによって、トランスナショナル・コミュニティが法的な制度外での活動によって、セーフティネットを提供していることが実態として明らかになった。 これらの調査を通じて得られた知見としては、① ヒトの移動が複雑化し、移動パターンをカテゴリー化することが難しくなっており、従来の移民研究の理論では十分に対応できないこと、② 移動するヒトはそれぞれの移動先の制度や政策に対応するために、「民間」のアクター、とりわけトランスナショナルなアクターの役割が大きいこと、③ しかし他方で、とりわけ社会保障に関しては、受け入れ国においては普遍主義的な観点からの制度設計と国家の成員であることを重視して市民権の保持者に限定する制度設計とが同居しており、その割合は後者が増加する傾向にある。④ 移民にとって国家による普遍主義からの後退は、移動先において社会保障のリスクが高まることを意味し、そのために国家から独立し、自らのアイデンティティに合致するコミュニティ(エスニック・コミュニティ)への依存が高くなる。しかし、エスニック・コミュニティへの依存の高まりは、社会保障制度から排除された状況を改善するための自助は高まる一方で、公助という点では後退し、諸刃の剣となっている。 これらの研究成果は、それぞれの分担者が高橋・北川・中島・丸山・宮島が論文・究ノートとして公刊した。また北東アジア学会第20回大会において、高橋・宮島によるセッションとして学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
26年度の計画は、規範的な側面からのアプローチを中心に移民の権利保護を中心に研究を進めることを課題としてきた。 平成25年に引き続き、移民の置かれている実情に関する調査を継続するとともに、本年度の課題である「国家の成員はどのように決められるか」「市民権が保障するものはどこまでか」「市民権を持たない人々はどのように国家に包摂されるのか」という観点から議論を行ってきた。さらに、国家を越えて移動するヒトの権利保護に対しては、社会保障協定や移住労働者に対する権利保護条約があるにもかかわらず、実効性を伴わない状況のなかでどのような国際的なガバナンスが可能なのかについても議論をしてきた。 国家の成員をめぐる議論では、憲法学のアプローチからフランスのムスリムの権利について、政治学のアプローチからは政治制度への参加をめぐる共和制の議論のなかで、移民・不法移民というカテゴリーがどのような論理によって国家の成員としての地位を確保できるのかという問題提起がなされ、論文として発表された。 国際政治の観点からは、EUにおける移民の社会保障をめぐる対立について、また中国の朝鮮族の移動の要因に関する分析において、従来移動の要因とみなされてこなかったセーフティネットの存在の有無が重要なポイントなることを明らかにした。 平成26年度の研究計画では、従来の理論的な枠組みでは捉えることができなかったヒトの移動とその対応を明らかにするということを目標としていたので、国際的な規範の成立過程という点では、議論はできたが研究成果を公刊するところまでは至らなかった点をのぞけば、それぞれの研究課題を達成したので、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度はこの研究プロジェクトの最終年度にあたるので、研究成果の取りまとめを行う。取りまとめを行うにあたり、国境を越えて移動するヒトを管理の立場ではなく、権利保護の立場で権利を保護するための国際的なガバナンスの可能性について議論する。 議論の場として、移民問題を抱えている国から研究者を招聘して、国際シンポジウムを開催する予定である。 シンポジウムには、日本の在日韓国人コミュニティの研究者(大阪経済法科大学)、移民の受け入れが中心になっている国としてチェコ・プルキニエ大学の社会学者、移民の送り出し国となっているフィリピンのサンカルロス大学、移民の受け入れ・送り出しの双方向になっていて、ASEANの枠組みで移民保護に取り組んでいるタイのチェンマイ大学の研究者に加わってもらって、意見交換を行う予定である。 シンポジウムにおける議論によって、立場の違いによって期待する制度の違いが明らかになるはずであり、その差をどのように埋めるための国際的な制度をどのようにつくるのか、さらに国境を越えて移動するヒトの権利を保護するために国際的なガバナンスをどのように構築していくのかという政策提言のための議論を行う予定である。 この立場は、国際的にはヒトの移動を管理するための制度化が進む一方で、移動するヒトの権利についてはほとんど等閑視されているという現状に対する処方箋となるはずである。 このシンポジウムにおける議論を踏まえたうえで、研究分担者ぞれぞれが自分の専門的なアプローチに基づき論文にまとめ、論文集の出版にむけて、準備をする。
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Causes of Carryover |
研究分担者のオランダでの調査の予定が、調査相手とのスケジュール調整が不調に終わり、平成26年度の調査を延期したために調査費と謝金が繰り越しとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度において、調査機関を変更して再度調査を実施する予定である。 実施時期は、8月を予定している。
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Research Products
(6 results)