2014 Fiscal Year Annual Research Report
カンボジア仏教の歴史・人類学的研究:国民・民族文化創生のダイナミズム
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25283016
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Research Institution | Ritsumeikan Asia Pacific University |
Principal Investigator |
笹川 秀夫 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 准教授 (10435175)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 知 京都大学, 東南アジア研究所, 准教授 (20452287)
高橋 美和 愛国学園大学, 人間文化学部, 教授 (40306478)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カンボジア / 上座仏教 / 地域研究 / 歴史学 / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、成果公開の場としてカンボジア、プノンペンでのワークショップ開催を計画していたが、「現在までの到達度」欄に記したとおり、ワークショップを延期する必要が生じたことから、各自による調査、研究を推進する方針に切り替えた。 笹川は、夏期休暇および春期休暇に、カンボジア国立公文書館にて文献資料収集を行った。さらに春期休暇には、フランス、エクサン・プロヴァンスの国立海外公文書館でも、文献資料収集を実施した。これらの調査で閲覧、複写した資料は、コンポン・トム州に関する植民地期の文書、第二次世界大戦期に関する文書などである。 高橋は、カンボジアおよびタイで現地調査を行い、仏教関連の教育実践に関する情報を収集した。カンボジアでは、過去に寺院悉皆調査を実施したコンダール州を再訪、キエン・スヴァーイ郡宗教局担当者や複数の寺院の僧侶に聞き取りを行い、同郡における寺院数の変化、新設された仏教教育中等課程の現状などを把握した。加えて、プノンペンで行われているドーン・チー(俗人女性修行者)による論蔵学講義を観察し、教科書出版等について聞き取りを行った。タイでは、上記ドーン・チーがかつて学んだ論蔵学校を数日にわたって訪問、学習者・教師・事務管理者への聞き取り調査を実施した。 小林は、カンボジア=タイ国境地域にあるバッタンバン州カムリエン郡タサエン区を訪問し、国境を越えた仏教徒の交流の様子を調査した。具体的には、国教から数キロメートルカンボジア側に位置する寺院に、上座仏教徒の年中行事であるカタン祭への参加を目的として、どのようなタイ人仏教徒が参加しているのかを参与観察した。そのほか、首都プノンペンおよびコンポン・トム州の政府機関にて、宗教行政に関する情報を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の代表者、および分担者は、京都大学地域研究統合情報センターが進める共同研究プロジェクト「地域情報学プロジェクト:大陸部東南アジア仏教徒社会の時空間マッピング」に参加している。このプロジェクトは平成26年4月、科研費基盤研究A「<宗教=社会複合マッピング>からよむ大陸部東南アジア仏教徒社会の動態と変容」(研究代表者、林行夫、京都大学地域研究統合情報センター教授)に採択された。この基盤研究Aは、本研究課題とも密接に関連することから、平成26年度に予定していたカンボジアでのワークショップは、基盤研究Aの計画にしたがい、平成27年度に延期することに決定した。こうした事情から、研究の進度は「やや遅れている」を選択した。 ただし、平成26年度に各自が実施した調査では、今後の研究の推進にとって有益な情報やデータも入手できている。笹川が行った資料収集では、これまでのカンボジア研究でほとんど利用されていない第二次世界大戦期の資料、とくに日本語による資料や刊行物を数多く入手することができた。 高橋によるカンボジアでの調査では、仏教教育課程開講寺院が依然として貧困層出身の若い僧侶にとって教育機関として機能していることが理解できた。タイでの調査でも、論蔵学習が地方にも広がりを見せていること、教師の一部が課程を修了した一般俗人であること、また2ヵ国における論蔵学の学びの場では出家者・俗人の境界がもはや大きな意味を持たないことなどが明らかになった。 小林によるカンボジア=タイ国境でのカタン祭に関する調査では、集まったタイ人仏教徒が、日常的な越境行動を通してカンボジア側の住民と深く関わっていることが判明した。後者は、食事の場などにてタイ語・カンボジア語で情報交換していた。仏教徒の越境ネットワークの一例として、興味深い事例を調査することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年3月下旬、本研究課題の代表者および分担者の計3名は、京都大学バンコク連絡事務所に集まり、2日間にわたって今後の共同研究の進め方について会合をもった。この会合において、成果公開のためプノンペンで開催するワークショップの詳細について検討を重ねた。招待する人物としては、研究成果を現地に還元することの意義を考慮して、研究者のみならず、僧侶や宗教省の担当役人を呼ぶことを確認した。また、共同での発表内容として、寺院の分布、個々の行政区分ごとの寺院の密度、寺院における教育の展開などを提示していくことを決定した。「現在までの到達度」欄にも記したとおり、寺院における教育については、歴史資料の収集でも、現地調査でも、新知見をもたらす可能性を秘めたデータが集まりつつある。 平成26年度までに、京都大学東南アジア研究所が刊行している英文査読誌Southeast Asian Studiesに、代表者および分担者の全員が論文を寄稿していた。当初はカンボジア研究の特集号として、これらの論文が同時に刊行される予定であったが、代表者および分担者以外の論文の集まり具合や査読結果に問題があり、結果的に個別論文として出版されることになった。笹川の論文は、平成27年4月に刊行済みだが、平成27年度にあたるため、来年度の実績報告書に記載することにしたい。高橋の論文も、査読を通過しており、平成27年度中に刊行されることが決定している。小林の論文は改稿が求められているが、査読を通過し次第、出版される予定である。 上記のバンコクでの会合などを通じて、笹川は文献資料の収集を継続すること、高橋と小林は平成27年度中に、それぞれコンダール州キエン・スヴァーイ郡およびコンポン・トム州の4郡で継続調査を行うことを計画している。今後も調査を継続し、順次成果を公開することに努めたい。
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Causes of Carryover |
「現在までの達成度」および「今後の研究の推進方策」に記したとおり、本研究課題は平成26年度にカンボジアにおいて、現地の研究者に加え、僧侶や宗教省の職員を招いて成果を公開するワークショップを開催する計画を立てていた。このワークショップ実施を平成27年度に延期すると決まったことから、平成26年度は、各自が最低限必要とする範囲で科研費を支出して、本調査および予備調査を実施し、大きな支出を抑えたところ、「次年度使用」が生じる結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の通り、平成27年度にはカンボジア、プノンペンでのワークショップの開催を計画している。開催にあたっては、発表者の渡航費と滞在費のほか、カンボジアからの出席者を招聘する費用、通訳への謝金、会場費(王立芸術大学を予定)など、大きな支出が見込まれる。こうした事情から、平成25年度および26年度に支出を抑えたことによる「次年度使用」は、平成27年度に支出する計画を立てている。
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Remarks |
現行の実績報告書の入力システムでは、論文集のなかの論文や、編者がいる書籍の章(book chapter)を入力する場合、図書の欄に入力するよう求めているが、これでは正確な書誌情報が入力できない。「作成上の注意」という手引きは、共著者の名をすべて記すよう求めているが、こうした論文集や編著書では、表紙や奥付に記されるのは編者の名のみであり、共著者の名をすべて記すことは、書誌情報として不正確である。
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