2013 Fiscal Year Annual Research Report
学校的社会化の現代的課題に関する総合的研究:<子ども理解>の制度化に着目して
Project/Area Number |
25285238
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
北澤 毅 立教大学, 文学部, 教授 (10224958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
有本 真紀 立教大学, 文学部, 教授 (10251597)
間山 広朗 神奈川大学, 人間科学部, 准教授 (50386489)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 教育社会学 / 歴史社会学 / 相互行為 / 構築主義 / 社会化 / いじめ / 児童 / 個性 |
Research Abstract |
本年度は研究実施計画にもとづき、1.学校授業場面の相互行為研究、2.「児童観」の歴史社会学研究、3.いじめ問題と生徒指導に関する研究を行なった。 まず1.については、昨年度後半より関東圏内の公立小学校においてフィールドワークを開始し、授業場面の映像データの収集を行なった。収集した映像データのデータベース化に着手するとともに、複数の視点からの分析を行なった。具体的には、本共同研究が継続課題として掲げる「学校的社会化」の諸相を明らかにする試みとして、授業場面にみられる発話のインデックス性と「笑い」の発生に焦点を合わせ、教師―児童および児童間の非対称性に関する相互行為分析を進めた。 次に2.については、(1)明治・大正期に作成された学校表簿の分析により「個性」概念の変容過程を明確にし、(2)家庭までを視野に入れた日本の「児童観」の成立と制度化の経緯について考察を進めた。(1)は、大正期の教師たちが個性調査簿に記録された児童の「個性」を参照しながら、児童の「性格づけ」・「語り継ぎ」の実践を行なっていたことを明らかにした。(2)は、近代学校教育制度成立以降、しだいに家庭内に学校的な価値が入り込み、保護者が学校教育に適合するかたちで子どもの養育にあたるようになった要因を<家庭の学校化>の観点から考察を行なった。 最後に3.については、いわゆる「大津いじめ自殺事件」を報じた新聞・雑誌・テレビが「男子生徒の自殺はいじめ自殺であった」との「事実」をいかにして作り出してきたかを明らかにしつつある。また、マスメディアの分析と並行して「当事者」(第三者調査委員会関係者、学校関係者、メディア関係者等)への聞き取り調査を継続して行なった。以上の3つのテーマから蓄積された研究成果については、学会発表および論文化を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の「研究の目的」には、1.学校授業場面の相互行為研究、2.「児童観」の歴史社会学研究、3.いじめ問題と生徒指導に関する研究の3つのテーマを設定した。 1.については、昨年度後半から開始した公立小学校でのフィールドワークとこれまでに蓄積されたデータから、「学校的社会化」の諸相を解明する新たな視座を提起し、学校授業場面の相互行為研究を蓄積することができた。 2.については、明治期から昭和前期にかけて「児童虐待」を報じた新聞記事と明治・大正期の児童に関する各種調査簿の分析を進め、学会発表および論文化を行なうことができた。また本年度は近代学校教育制度成立以降、家庭内に学校的な価値が入り込む過程を<家庭の学校化>という観点から分析を進めることができた。 3.については、「大津いじめ自殺事件」をめぐる各種メディア言説の収集および関係者へのインタビューをもとにした実証研究に着手し、学会発表を行なうことができた。さらに、NHKアーカイブスのデータベースを中心にいじめが社会問題化する1980年代のメディア報道の調査をすすめることができた。 以上から本年度の「研究の目的」を順調に遂行することができたと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」で述べたように、本研究課題はおおむね順調に進展している。研究テーマ1.については、これまで蓄積された映像データのデータベース化を本格化させつつ、実証的研究の蓄積を継続してはかる。昨年度後半から開始した公立小学校でのフィールドワークの研究成果については、調査協力校での報告会の実施を経て、学会での発表を予定している。 研究テーマ2.については、個性調査簿および学籍簿のデータベース化を継続的に行いながら、関西地域を中心とした史料収集の予備調査を進める。併せて学校管理法書や師範学校附属小学校等が発行した研究報告等の文献研究を行う。また、児童虐待防止法の法制化と「児童」の様態について、当時の新聞記事や社会調査結果などをもとに分析を深める予定である。 研究テーマ3.については、メディア分析とインタビュー調査を継続しつつ、同時に、これまで蓄積してきた調査データの整理や転記作業を実施する。そうすることで、マスメディアが構築した現実と当事者の経験とを対比させつつ明らかにしていく。また、昨年度の学会報告などをもとに可能なテーマについて論文化していく。 なお、上記3つのテーマの研究成果をまとめ、逐次、学術論文を公刊していくとともに、今年度末に中間報告書の作成を予定しており、それらの実現のために、多様な形態の研究会を定期的に実施する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該助成金が生じた理由は、1.公立小学校での追加調査の実施、および、2.NHKアーカイブスの学術利用トライアルの採択にある。まず、1.について、本年度後半より「学校的社会化」の相互行為研究の一貫として急遽、関東圏内の公立小学校への追加調査を実施することになった。すでに収集済みの1年生の授業場面と彼らが6年生である現在の比較は本研究に意味を持つが、今回その6年生の授業場面の撮影に対する小学校の合意がとれたため、調査費用(交通費、アルバイト代)が必要となった。次に、2.について、本課題におけるいじめ問題研究の意義が認められ、NHKアーカイブスの学術利用トライアルに採択された。この採択は当初研究計画になかったものであり、その利用には当該機関への交通費およびデータ使用料が発生するため、調査費用が必要となった。 以上の理由により、当初計画からの前倒し支払い請求を行なった。 次年度使用額については、いじめ問題と生徒指導に関する研究の一貫として、「大津いじめ自殺事件」の「当事者」へのインタビュー調査のために使用する。本件の「当事者」へのインタビュー調査は、年度内に複数回実施しており、メディア関係者や教育関係者がいじめ問題をどのように理解し、対応しているのかを明らかにするうえで極めて貴重なデータとなっている。一方で「大津いじめ自殺事件」は現在も民事訴訟が継続中であり、インタビューを行なう時期や対象者の選択には慎重な配慮が求められている。こうした状況を鑑み、次年度使用額の執行対象となる平成25年3月中旬から3月末にかけて現地に赴き、複数回のインタビューを実施した。次年度使用額は、これらの調査に関わる交通費、宿泊費、施設借用費、調査協力者への謝礼として使用する予定である。
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Research Products
(25 results)
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[Remarks] 水谷智彦,2014,図書紹介『卒業式の歴史学』,立教大学教育学科研究年報,第57号,131頁。
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[Remarks] 有本真紀,2014,「卒業式と《仰げば尊し》」 CD解説『仰げば尊しのすべて』 ,22-31頁。
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[Remarks] 有本真紀,「日本での定着-卒業式と別れ」 CD解説『蛍の光のすべて』(改訂版),38-44頁。
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[Remarks] 有本真紀,「有本あきひとの足跡」鳥取県立わらべ館童謡唱歌研究情報誌『音夢』第8号,49-55頁。
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[Remarks] 有本真紀,2014,「音楽教育史の課題と方法」 『音楽教育史研究』第16号,37-51頁。。