2013 Fiscal Year Annual Research Report
地域をつなぐ自省的な「歴史認識」形成のための基礎的研究-東北地方を基軸に-
Project/Area Number |
25285241
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
今野 日出晴 岩手大学, 教育学部, 教授 (10380213)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
外池 智 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (20323230)
河西 英通 広島大学, 文学研究科, 教授 (40177712)
小瑶 史朗 弘前大学, 教育学部, 准教授 (50574331)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 歴史認識 / 歴史教育 / 東北 / 歴史実践 / 記憶 / 博物館 |
Research Abstract |
本研究は, 日本と中国の異なる研究領域の研究者によって, 感情的な対立のなかで, 隘路に陥りがちな日本と中国との間の「歴史認識」問題に対して, 自省的な「歴史認識」 を育成するための歴史教育プログラムを構想しようとする共同研究である。まず,5月に, 事務局をおく岩手大学教育学部において,研究代表者(今野日出晴)と中国側統活の王中忱(清華大学)と研究計画全体の調整をおこなった。6月には,「花岡事件」の予備的調査をおこない,それらの準備作業を踏まえて,8月に,岩手大学において全体研究会を開催した。全体研究会では,今野が「地域をつなぐ自省的な『歴史認識』形成のために」と題する基調報告をおこない,分担研究者の河西英通(広島大学)が「東北論の可能性」を,外池智(秋田大学)が「社会科における『花岡事件』教材化の試み」を,小瑶史朗(弘前大学)が「日韓共通歴史教材づくりの経験から」を報告し,研究課題の明確化と基本的な視座の共有をはかった。中国側からは,王中忱(清華大学),韓東育(東北師範大学),王鉄軍(遼寧大学),陳東(曲阜師範大学)が参加し,今後の共同研究の方向性について共通理解をはかった。中国側研究者は,岩手県北上市の北上平和記念展示館などを視察し,過去の記憶の保存と継承について検討した。これまでの研究成果として,今野は,「歴史認識」を深めるための原理的な問題を考察し,攻撃的な論争とは異なる対話的討論・討論的対話の可能性を提案した。河西は,東北地方に関する歴史研究の系譜と今後の研究課題について論じる一方で,地域史料の調査収集に努めた。外池は,戦争体験「語り」の継承プログラムについて,広島・長崎,沖縄での事例研究をおこなった。小瑶は,東北地域と北東アジア地域を接合する歴史教育のあり方を実践的に探究し,また,日韓間の歴史和解に寄与する歴史教育と国際共同研究のあり方についての提案も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,社会科教育研究者が中心となって,日本と中国の異なった領域の研究者とともに,東北地方と旧「満洲」をつなぐ人びとの「生きられた経験」に着目して,歴史認識の変容を迫るような<歴史実践の場>を具体的に措定して,その場を軸に,自省的な「歴史認識」を育成するための歴史教育プログラムをつくりあげようとするものである。まず,日本と中国の研究者が本研究課題に関して,基本的な視座を共有し,「東北アジア歴史認識研究会」が結成され,今後の継続的な共同研究の基盤がつくられたことが重要である。そして,具体的な<歴史実践の場>として,秋田県の「花岡事件」や岩手県の北上平和記念展示館などが候補としてあげられ,地域のおける加害及び被害の記憶の保存のあり方とそれらの課題について検討できたこと,さらに,これらを軸とした歴史教育プログラム(戦争体験「語り」の継承プログラム)への理論的及び実践的な探求が一定程度進んでいることなどから,研究目的達成のために,初年度の進捗状況としては,おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
東北地方における<歴史実践の場>については,概ね特定することができた。今後は,中国東北部(旧満州)において,<歴史実践の場>を調査して措定することが求められる。そのため,平成26年度は,9月に, 黒竜江省ハルビン市方正県の「日本人公墓」,樺南県・依蘭県など,東北地方からの満蒙開拓団の村や吉林省長春市の旧満州国関連施設や順戦犯管理所などを対象に調査をおこなう。特に,東北地方と旧満洲とをつなぐ人びとの「生きられた経験」を考えるうえで,満州移民の問題は中心的な課題となる。そのために,新たに,分担研究者として伊藤大介(東北大学学術資源研究公開センター史料館協力研究員)を加えて,この課題に対応して研究を推進していく。9月の調査をふまえて,平成26年度後半は,社会科教育研究者を中心に歴史教育プログラムを構想していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は,自省的な歴史認識を育成するための歴史教育プログラムの構築を目的とし,そのための具体的な<歴史実践の場>としては,東北地方と中国東北部(旧満州)を想定している。応募時には,平成25年度にその二つの調査を実施する計画として構想していた(そのために平成25年度の研究経費が計上されていた)。しかし,中国東北部での調査は,日中間の情勢や中国側の準備状況などから,直ちに確定できない状況が生じた。そこで,平成25年度の交付申請書では,それらを勘案して,平成25年度の研究事業としては東北地方の<歴史実践の場>についての共同調査をおこない,中国調査は,平成26年度におこなうこととして提出した。そのために中国調査の旅費を次年度使用額として残した。 平成26年度の研究経費とあわせて,中国東北部での<歴史実践の場>の調査をおこなうための費用として支出する。具体的には,日中両国の研究者(日本側8名,中国側4名)で,黒竜江省ハルビン市方正県の「日本人公墓」,樺南県・依蘭県などの東北地方からの満蒙開拓団の村跡や吉林省長春市の旧満州国関連施設や遼寧省「順戦犯管理所」などを対象に調査をおこなう。
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Research Products
(12 results)