2015 Fiscal Year Annual Research Report
地域をつなぐ自省的な「歴史認識」形成のための基礎的研究-東北地方を基軸に-
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25285241
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
今野 日出晴 岩手大学, 教育学部, 教授 (10380213)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
外池 智 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (20323230)
河西 英通 広島大学, 文学研究科, 教授 (40177712)
小瑶 史朗 弘前大学, 教育学部, 准教授 (50574331)
伊藤 大介 東北大学, 学内共同利用施設等, その他 (70400439)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 歴史認識 / 歴史実践 / 東北 / 花岡事件 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本と中国の研究者が共同して、自省的な「歴史認識」を育成するための歴史教育プログラムをつくりだすことを日的としている。平成28年度は、最終年度あたり、そのプログラムを実施し検討することとなる。そのために、本年度は、どのような歴史的事実が、さらには、どのような<歴史実践>の場が固着した「歴史認識」を揺り動かすのかという点に絞って、研究を進めた。 まず、2月には、岩手大学において、日本側の全体研究会を開催した(第4回東北アジア歴史認識研究会)。ここでは、元デリー大学教授、現中国研究所(デリー)の名誉フェローのブリッジ・タンカ氏に、「国境を超える歴史-アジアにおける知の回路」として、政治的な境界を越える方法として、インドと日本の文化交流を主題にした基調講演をうけて、植民地支配と近代化、伝統と革新などの検討を進めた。また、外池智氏(秋田大学)から「花岡事件へのフィールドワークと歴史実践の構築」と題して、フィールドワークを含みこんだ実践の報告をうけ、平成28年度の歴史教育プログラムの具体的な検討をおこなった。 次に、3月には、中国側から、王中忱(清華大学)・陳東(曲阜師範大学)の両氏とともに、岩手大学で全体研究会を開催した。まず、外池智氏(秋田大学)から「メディアで描かれる花岡事件」と題して、これまで地方テレビ局等で放映されたドキュメンタリー番組などからそのイメージに接近し、宇佐美公生氏(岩手大学)から、「花岡事件と和解」として、戦後の西松建設との和解の状況、さらには、慰霊事業に行政(大館市)が関与するようになった経緯など、和解の具体的な様相とそこでの問題について報告され、戦後補償裁判の意義と課題を検討した。こうしたなかから、「花岡事件」を<歴史実践>の場として歴史教育プログラムを組むことが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「感情の記憶」を包み越えて、自省的な歴史認識を形成するために、<歴史実践>の場を措定し、日本と中国の研究者によって、歴史教育プログラムを作成・実践するものである。平成27年度には、第4回東北アジア歴史認識研究会で、広くアジア全体に視野を広げて、個々の国家が相対しなければならない状況を考慮しながらも、国境を越えるための方法について認識を深めることができた。また、第5回東北アジア歴史認識研究会では、中国側の研究者とともに、「花岡事件」に関して、戦後の和解の意義と課題について、議論を共同で深めることができ、最終年度に向けて、具体的な方向性を確認することができた。また、研究代表者は、戦後歴史教育のなかで、「戦争体験」がどのように実践されてきたかという視点から、戦後歴史教育実践史からも「花岡事件」について検討を加え、現在の共同研究を位置づけることを可能にした。 以上のことから、最終年度の具体的な歴史教育プログラムの実施に向けて、共通の認識を得ることができたと判断する。そこで、3年目の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、岩手大学・秋田大学・弘前大学の教員養成系の学生および中国人留学生を対象に、「花岡事件」に関して、フィールドワークを組み込んだワークショップ・プロラムを実施することとした。同時に、これまでこの研究に関与してきた日本と両国の研究者も一同に介して、このワークショップ・プログラムに参与し、日本と中国の歴史認識、特に、戦争被害と加害の問題をどのように考えるのか、大館市による慰霊の実際なども対象にしながら、未来に向けての和解のありかたを展望できるものとする。 具体的には、まず、8月18・19日の「花岡事件」のフィールドワークおよびワークショップの実施に向けて、各大学ごとに、事前学習も含めた歴史教育プログラムを実施する。さらには、分担研究者は、6月の慰霊祭に参加し、現地でのフィールドワークの準備をおこなう。そして、8月18・19日の秋田県大館市での「花岡事件」のフィールドワークおよびワークショップを実施し、日中の研究者も学生とともに、参加し議論をおこなう。特に、「花岡事件」訴訟の和解のありかたを主題にすることから、法社会学の研究者として、土屋明広准教授(金沢大学)、中国側からは劉建機教授(国際日本文化研究センター)にも新たに加わってもらい、共同研究を充実したものにする。そして、この取り組みを振り返り、<歴史実践>として、意味づけて、未来に向けた和解のありかたを展望し、この共同研究の成果として、報告書を作成する。
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Causes of Carryover |
当初は、最終年度のワークショップおよびシンポジウムを岩手大学の学生・留学生で行おうと計画していた(会場:岩手大学)が、<歴史実践>の場として、「花岡事件」(秋田県大館市)のフィールドワークを組み込むこと、さらには、秋田大学・弘前大学の学生も対象として実践するようにしたため、それらの旅費等の諸経費が必要であることとなった。そのために、その費用を捻出するために、平成27年度の支出を抑制し、翌年に繰り越すこととした。また、このフィールドワークやワークショップのために、日本側の研究者として、法社会学の土屋明広氏(金沢大学)と、中国側の研究者として、劉建機氏(日文研)の2名を招聘するための費用も準備するものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
8月18・19日の「花岡事件」(秋田県大館市)のフィールドワークとワークショップを実施するための諸費用(秋田大学・弘前大学・岩手大学の学生、中国からの留学生、および、新たに招聘した土屋明広氏(金沢大学)、劉建機氏(日文研)の2名)として支出する。
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Research Products
(20 results)