2014 Fiscal Year Annual Research Report
プロテオミクスを用いたリン酸化シグナル定量系の構築と薬効予測モニタリングへの応用
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25290054
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Research Institution | 独立行政法人医薬基盤研究所 |
Principal Investigator |
朝長 毅 独立行政法人医薬基盤研究所, 創薬基盤研究部, プロジェクトリーダー (80227644)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松原 久裕 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20282486)
石濱 泰 京都大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (30439244)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | プロテオミクス / バイオマーカー / 薬効予測 / リン酸化タンパク / がん |
Outline of Annual Research Achievements |
分子標的薬の登場でがん治療は画期的に進歩した。その反面、分子標的薬の感受性の人による違いや耐性化が問題となっており、その有効性や耐性化マーカーが必要である。現在、単一の遺伝子発現や変異での薬効予測が行われているが、それだけでは不十分であり、新規バイオマーカーの開発が急務である。本研究では、(1)質量分析計を用いて、細胞内シグナル伝達に関わるリン酸化タンパク質を網羅的に定量するシステムを構築し、細胞内シグナルの活性化状態の全体像をリアルタイムに定量する系を確立する。(2)その測定系を用い、種々の分子標的薬の薬効予測・耐性化のモニタリングに応用する。リン酸化シグナル定量系による薬効予測モニタリングは世界初の試みであり、これが臨床応用されれば、より適切な治療法の選択が可能となり、がん治療の質の向上のみならず医療費の削減に貢献できる。 平成26年度は、より多くの細胞内リン酸化タンパク質・リン酸化ペプチドの定量を目指して、前処理法の改良を行った。具体的には、リン酸化ペプチドの濃縮に、IMAC法と抗チロシン抗体を用いた免疫沈降法を併用することで、チロシンリン酸化ペプチドの同定率を上げた。また、リン酸化ペプチド濃縮後の分画法を、HPLCの代わりにイエローチップを用いた簡易分画法を開発した。 細胞内増殖シグナルの伝達には、キナーゼによるリン酸化が重要な役割を担っており、現在抗がん剤として用いられている分子標的薬の多くはキナーゼ阻害剤である。従って、分子標的薬の薬効を予測するためには、薬のターゲットとなるキナーゼ活性をモニタリングすることが重要である。そこで我々は、同定されたリン酸化ペプチド(基質)の情報から、キナーゼ活性を予測する手法の開発を行った。 上記のキナーゼ活性予測法を用いて、種々の阻害剤がどのようなキナーゼを抑制するかを肺がんや子宮がんの細胞株を用いて行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画1.SRM/MRMを用いた細胞内シグナル伝達に関わるリン酸化タンパク質の定量法の確立に関しては、SRM/MRMによる細胞内リン酸化タンパク質の定量解析が予想に反して難易度が高かったため、安定同位体標識TMT10を用いたショットガンリン酸化プロテオミクスの手法で解析を進め、培養細胞から常時約15,000種類のリン酸化ペプチドの定量、また約500種類のチロシンリン酸化ペプチドの定量ができる系を確立した。この数は世界最高レベルである。また、同定されたリン酸化ペプチド(基質)の情報から、キナーゼ活性を予測する手法(KSEA法:Kinase-Substrate Enrichment Analysis)及びキナーゼに対するATP結合能を指標にしたキナーゼ活性化予測法の開発を行った。 当初の計画2.阻害剤による細胞内シグナル伝達に関わるリン酸化タンパク質の定量解析に関しては、上記の手法を用いて、肺がん、子宮がん細胞株の阻害剤処理後のリン酸化タンパク質の定量を行った。また、その定量結果より、肺がん細胞株ではチロシンキナーゼ阻害剤エルロチニブ処理後の細胞内キナーゼ活性、子宮がん細胞株ではマルチキナーゼ阻害剤であるスタウロスポリン処理後の細胞内キナーゼ活性予測を行った。その結果、薬剤処理により、各薬剤のターゲットとして知られているキナーゼ活性の低下が認められただけでなく、未知のキナーゼ活性も変化することが確認され、これらのキナーゼ活性の変化が薬剤効果予測マーカーとなる可能性が示唆された(J Proteome Res 2014)。
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Strategy for Future Research Activity |
1.薬剤耐性株を用いた薬剤効果予測マーカーの探索および検証 昨年度までに確立した細胞内キナーゼ活性予測法を用いて、阻害剤処理前後の薬剤感受性株と耐性株のキナーゼ活性を予測し、薬剤効果予測マーカーキナーゼ群を絞り込む。また、それらのキナーゼ阻害剤を用いて、マーカーキナーゼが本当に薬剤耐性に関与しているかどうか検証する。検証できたキナーゼの活性は分子標的薬の薬効予測マーカーや耐性化のメカニズムとして有望である。また、その阻害剤は耐性化を克服する新たな治療薬となりうる。大規模リン酸化タンパク質定量は研究分担者の石濱の協力のもと行う。 2.臨床検体から樹立した初代培養細胞、三次元培養細胞を用いた薬剤効果予測マーカーの探索および検証 上記の解析手法をより臨床検体に近いサンプルに応用する。具体的には、研究分担者松原が収集したがん組織検体から樹立した初代培養細胞や三次元培養細胞を用いた薬剤効果予測マーカー、薬剤耐性責任キナーゼの同定と検証を行う。 上記の研究で得られた結果を取りまとめて、論文投稿、学会発表を行う。
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Causes of Carryover |
当研究課題のために当初3月中旬に納品される予定であった試薬の納品が遅れ、支払い事務手続きが平成26年度内に完了しなかった。このため研究に若干の遅れが生じたが、研究遂行上の支障は生じていない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究を遂行する実験補助員の人件費と、細胞培養に必要な、培養液や血清、リン酸化プロテオミクス解析に必要な試薬等の消耗品の購入に充てる予定。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] Nuclear accumulation of annexin A2 contributes to chromosomal instability by coilin-mediated centromere damage2015
Author(s)
Kazami, T., Nie, H., Satoh, M., Kuga, T., Matsushita, K., Kawasaki, N., Tomonaga, T*., and Nomura, F
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Journal Title
Oncogene
Volume: in press
Pages: in press
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Proteome-Wide Discovery of Unknown ATP-Binding Proteins and Kinase Inhibitor Target Proteins Using an ATP Probe.2014
Author(s)
Adachi, J., Kishida, M., Watanabe, S., Hashimoto, Y., Fukamizu, K., and Tomonaga, T*
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Journal Title
J Proteome Res
Volume: 13
Pages: 5461-70
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Discovery of Colorectal Cancer Biomarker Candidates by Membrane Proteomic Analysis and Subsequent Verification using Selected Reaction Monitoring (SRM) and Tissue Microarray (TMA) Analysis.2014
Author(s)
Kume, H., Muraoka, S., Kuga, T., Adachi, J., Narumi, R., Watanabe, S., Kuwano, M., Kodera, Y., Matsushita, K., Fukuoka, J., Masuda, T., Ishihama, Y., Matsubara, H., Nomura, F., and Tomonaga, T*
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Journal Title
Mol Cell Proteomics
Volume: 13
Pages: 1471-1484
DOI
Peer Reviewed
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