2013 Fiscal Year Annual Research Report
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25291045
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡本 浩二 大阪大学, 生命機能研究科, 特任准教授(常勤) (40455217)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / オートファジー / 酵母 / 品質管理 / オルガネラ膜動態 |
Research Abstract |
ミトコンドリアの選択的分解はオートファジーの仕組みを利用していることから「マイトファジー」と呼ばれ、ミトコンドリアの品質や量を管理する仕組みである。これまでの研究で、出芽酵母のリン脂質メチル基転移酵素Opi3を欠失した細胞でマイトファジーが強く抑制されることを見出している。細胞の主要なリン脂質フォスファチジルコリン(PC)は、フォスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化によっても生成される。酵母においては、PEにメチル基を1つ付加してフォスファチジルモノメチルエタノールアミン(PME)を生成する酵素Cho2と、PMEにメチル基を2つ付加してPCを生成するOpi3が存在する。本研究では、Opi3欠失が引き起こすマイトファジー不全の機序の解明と、選択的ミトコンドリア分解におけるリン脂質メチル基転移反応の役割の理解を目的として、解析を進めた。 その結果、opi3欠失細胞に蓄積したPMEがオートファジーに必須なユビキチン様タンパク質Atg8に共有結合することがわかった。野生型細胞で生成されるAtg8-PEとは異なり、Atg8-PMEはマイトファジーを効率よく起こすことができない。加えて、Opi3欠失によってCho2の発現が異常に亢進していた。リン脂質のメチル化は、抗酸化物質グルタチオンの生成と共役している。グルタチオン量が上昇すると、マイトファジーに必須なタンパク質Atg32の発現は抑制されるが、実際にopi3欠失細胞ではグルタチオン量が増加し、Atg32のレベルも顕著に低下していることがわかった。これらの知見は、Cho2およびOpi3によるリン脂質メチル化反応の適切な制御が、マイトファジーに重要であることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究成果において、特質すべき点が2つある。 ひとつは、Atg8のPMEへの結合である。これまで、生理条件下の細胞においては、Atg8はPEにのみ共有結合すると考えられてきた。ところが、細胞にPMEが蓄積し、マイトファジーが誘導されると、Atg8-PMEが生成されることがわかってきた。さらに、通常Atg8-PEはシステインプロテアーゼAtg4によって脱脂質化され、遊離のAtg8にリサイクルされるが、Atg8-PMEはAtg4によるプロセシングを受けにくく、細胞内に蓄積することがわかった。このように、Atg8がPE以外のリン脂質に共有結合すること、PMEのメチル基が立体障害となり、Atg4によるAtg8のリサイクルがうまくゆかなくなることが初めて明らかにされた。もう一つは、リン脂質メチル基転移反応とマイトファジーがリンクしている可能性を見出したことである。PEからPCが合成される際、3つのメチル基が付加される。この反応と共役して、システインの前駆体が作られ、それを元にグルタチオンが合成されることが知られている。一方、グルタチオンはマイトファジーに対して負に作用するが、その原因はAtg32の発現が抑制されることに起因すると考えられる。実際に、opi3欠失細胞ではグルタチオンが過剰に蓄積しており、そのためにAtg32の発現誘導が起こりにくくなっていることを突き止めた。 以上の成果を踏まえ、研究計画はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度においては、「タンパク質N末端アセチル化酵素NatAのマイトファジーにおける機能」に焦点を絞り、解析を進めてゆく。これまでに、酵母のタンパク質N末端アセチル化酵素の一つであるNatA複合体の構成因子Ard1及びNat1を欠損した細胞でマイトファジーが強く抑制されていることを見出した。NatA複合体は細胞質リボソームと結合し、新生ポリペプチド鎖のN末端をアセチル化することが知られている。Ard1はアセチル化反応の触媒部位をもつ酵素サブユニットであり、Nat1はリボソームと相互作用するアダプターである。これまでの解析から、Ard1及びNat1欠損細胞でAtg32の発現が抑制されること、Atg32のN末端に変異を導入したタンパク質でもマイトファジーに機能することがわかった。これらの知見から、NatA複合体によってアセチル化されるAtg32以外の未知の基質タンパク質が、Atg32の発現を直接的あるいは間接的に制御していることが考えられる。 そこで、①Ard1の触媒部位およびNat1のリボソーム結合モチーフに変異を導入し、マイトファジー活性が損なわれるか調べる、②マイトファジーが起こる際、顕著にアセチル化されるNatAの基質タンパク質を質量分析にて同定する、③基質候補タンパク質のN末端アセチル化の役割とAtg32の発現における影響を明らかにする。これらの解析により、タンパク質のアセチル化によってマイトファジーの誘導がどのように制御されているかが理解できるものと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の実験計画はほぼ全て順調に達成することができた。一方、当初の予定よりも多くの「物品費」を、科学研究費補助金から支出したこと、また「旅費」や「その他」の項目については運営費交付金や別の研究費によってサポートすることができた。また、当該年度に行なった実験が円滑であったため、予想よりも少ない費用で成果をあげることができた点も大きい。これにより、学術研究助成基金助成金の繰越額が350万円超となり、平成26年度以降の実験計画にて有効に利用できるものと考えている。 繰越分の使用計画においては、平成26年度の実験計画をさらに効率よく進めてゆくため、使用内訳を大幅にアレンジして活用してゆく。具体的には、①Ard1の触媒部位およびNat1のリボソーム結合モチーフへの変異導入とマイトファジー活性の評価②マイトファジーおよびNatA依存的アセチル化基質タンパク質の質量分析③ウェスタン解析による基質候補タンパク質のN末端アセチル化の役割とAtg32の発現における影響の検討を行なう。以上の実験内容において、変異導入などの組換え遺伝子実験・質量分析に供する試料作製・ウェスタン解析などの実験を実施・補助する研究員と技術補佐員の人件費に充てる。
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