2013 Fiscal Year Annual Research Report
採餌行動の脳内機構:多元的価値に基づく意思決定に関する研究
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25291071
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松島 俊也 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40190459)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 最適採餌 / 意思決定 / 社会的知性 / 衝動性 / 大脳基底核 |
Research Abstract |
衝動性は、ヒトを含む動物の行動特性を、経済的価値判断と意思決定に基づいて評価する指標のひとつである。期待される報酬の「近さ」と「大きさ」を独立に操作して、「近くて小さな報酬」と「大きいが遠い報酬」の二者から択一選択をおこなわせるタスクを異時点間選択という。このタスクによって計られる「近さ」を優先する行動形質を、衝動性の一要因として特に選択衝動性と呼ぶのである。 我々は競争採餌を経験させることによってヒヨコの衝動性が高まる、という知見を得て、その神経機構を解析してきた。この機構を理解することが、価値の多元性を理解する鍵となるからである。また、大脳線条体(側坐核を含む、腹内側部)に注目するが、それはこの領域の局所破壊が衝動性を高めることを見出していたからである。実際、この領域から自由行動条件の下で単一ニューロン活動を記録すると、報酬の近さを符号化する細胞、量を符号化する細胞などがこの領域に見出された。これらのニューロン活動が競争採餌の文脈でどのような修飾を受けるか検討したところ、以下の知見を得た。 (1)競争文脈は、報酬手がかりの提示期に一過的に生じる興奮性活動に対して、抑制的に作用した。(2)競争文脈は、オペラント後の遅延期(報酬の供給に先立つ時期)の活動、また報酬期(餌が与えられてそれを消費する時期)の活動には影響をしなかった。 更に、競争採餌に伴う歩行運動量が増加(社会的促進)について解析した。他者が存在すとき、採餌に投資する運動量が増える現象である。従来、動機付けが高まる事によって生じる、と解釈されてきた。そこでセロトニン・ドーパミン等、線条体に作用する一連の神経修飾物質に着目した。その結果、(3)セロトニンの取り込み阻害剤の全身投与は、内側線条体の局所破壊と同様に、運動量を減少させたが、(4)中脳ドーパミンの枯渇(ただし片側性のみ)は効果がなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、主に次の研究を進めた。 (1) 競争採餌が衝動性の亢進を引き起こす要因として報酬量の分散(リスク要因)に着目し、一連の行動実験を行った。その結果、量的な変動がなく手がかりが常に一定量の報酬と結びついている場合、競争採餌は衝動性の亢進を引き起こさないことが判明した。この際、リスクが量に関する知覚と予期の形成を阻害している可能性があった。そこで、異時点間選択ではなく、単純な「小さい餌」と「大きな餌」の二者択一選択を同様に検討した結果、リスクの導入は「大きい餌」に対する選好性に影響を与えないことが判明した。選択比には量の期待値に基づく対応法則が成立したことから、リスクは量の予期推定を阻害しないと結論された。 (2) 予期された報酬量と実際に得られた報酬量の差を予期誤差と呼ぶ。従来より標準的な理論として広く受け入れられている強化学習理論では、この予期誤差が中脳のドーパミン作動性ニューロンによって符号化され、放出されたドーパミンが予期表現を書き換えていくと考えられている。しかし、予期誤差の計算がどのような回路によって担われているか、不明であった。我々はすでに内側線条体の局所破壊がオペラントの消去に対して抑圧的に作用することを見出していた。そこで、消去試行における単一ニューロン活動を解析した結果、報酬期における活動が異なる2群のニューロンを見出した。一群のニューロンは報酬期に興奮性の活動変化を示し、これは消去試行において速やかに活動を消失させたことから、実報酬の評価に関わると考えられる。他方、もう一群のニューロンは報酬期に抑制性の活動変化を示し、これは消去試行においてゆっくりと消去した。後者は報酬期にあって、報酬の予期を表現する可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
競争採餌は衝動性亢進の必要条件の一つであるが、それだけでは十分ではなく、リスク(帰結が分散すること)が随伴する必要があることがわかった。サルの中脳ドーパミンニューロンはリスクに伴うエントロピー量が高いほど、手掛かり期の活動が高いことが既に広く知られている。他方、大脳中隔(腹側被蓋野のドーパミン投射を受ける)のニューロンが同様にエントロピー量に相関した活動を示すことも見出されており、リスク感受性ニューロンは広い範囲にわたって分散している可能性が高い。 他方、採餌運動量の社会的促進は、中脳の黒質外側部の破壊(ただし片側性)によって選択的に損なわれるものの、当該領域にドーパミン枯渇剤を微量投与した場合には損なわれなかった。しかし、競争による衝動性亢進について、ドーパミン系が関与するか否か、については結論が得られていない。 平成26年度は、中脳ドーパミン作動性ニューロン群について、更に一連の実験を行う。(1)腹側被蓋野および黒質のニューロン活動が社会的要因とリスク(あるいはその組み合わせ)によって修飾を受けるか、(2)大脳中隔・側坐核・内側線条体へのドーパミン枯渇剤の両側性微量投与が、競争採餌による衝動性亢進を阻害するか。神経活動の記録解析をおこなう前に、最初期遺伝子egr-1の転写産物を指標として、競争とリスクの両条件を変えた4群の雛を用意し、群間で明確な差を示す領域を網羅的に検索する。更に、衝動性亢進が可逆的であって、その場の採餌環境に応じて柔軟に変化するものであるか、それとも非可逆的であって幼弱期の競争条件が決定的に行動発達を支配するか、一連の行動実験によって検討を加え、感受性期の有無について競争とリスク感受性の双方について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費の中で次年度使用額29,977円が生じたのは、25年度末(3月末日)以前に十分な余裕をもって支払いの手続きを済ませるべきところ、伝票等の提出が遅れたために4月以後に処理する必要が生じたためである。 4月早々にて支払いを終え、決算を済ませた。
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Research Products
(12 results)