2013 Fiscal Year Annual Research Report
非対称な性の進化:緑藻の生活史制御実験と理論による異型配偶の進化機構解明
Project/Area Number |
25291097
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
富樫 辰也 千葉大学, 海洋バイオシステム研究センター, 教授 (70345007)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉村 仁 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (10291957)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 異型配偶 / 性淘汰 / 性的二型 |
Research Abstract |
本研究では、海産緑色藻類が持っている有利な性質を活用して、生物界に広く見られる形態的・行動的な雌雄の違いが進化する理由の解明にブレークスルーをすることを目的にしている。これらの性的二型は、性淘汰によって引き起こされる。その根本的なメカニズムは精子や卵に相当する細胞、すなわち配偶子のサイズが雌雄の間で異なることにある。研究では、雌雄の配偶子サイズの進化に決定的な影響を与えることがわかっていながら実験系の構築が困難であるために未だ実験による検証が出来ていない重要な問題を実験によって解決することを目指している。 平成25年度は、研究計画にしたがって、ヒトエグサ(Monostroma)属の海産緑藻のなかでも、我々がこれまでの研究のなかですでにフェノロジーを明らかにしており、野外での配偶子生産のスケジュールが詳細にわかっているエゾヒトエグサについて、成熟し配偶子形成が起きた配偶体を北海道大学北方生物圏フィールド科学センター室蘭臨海実験所の協力を得て北海道室蘭市の太平洋沿岸で採集した。採集した研究材料からは、配偶子放出を実験室で誘導した。放出された雌雄の配偶子は、配偶子が特異的に示す正の走光性を利用して滅菌海水中を泳がせて洗浄した。洗浄した雌雄の配偶子を混合して接合させ、接合子を作製した。接合子は、配偶子と反対の負の走光性を示すこと利用して接合せずに残った配偶子ときれいに分離した。培養実験によって生育条件を制御しながらさまざまな条件を探索した結果、接合子、ならびに雌雄の配偶子から単為発生した微視的な胞子体において、遊走子形成を実験的に誘導することに成功した。これによって、放出された遊走子の数ならびに遊走子から発生してくる次世代の配偶体(子供)の数を比較するための実験系を確立した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
目的で提示した問題に実験によって回答を与えることは多くの生物において極めて困難であった。その主な理由は、以下に挙げられる:1)雌雄の配偶子が接合せずに発生(単為発生)することができないため、雌雄の配偶子が有する資源がそれぞれ接合子の適応度にどれだけ寄与するかを分けることができない;2)雌雄の配偶子のサイズが固定され、サイズの異なる接合子を実験的に作ることができない;3)次世代の子供の数が多過ぎるもしくは次世代が得られるのまでに時間が掛り過ぎるなどの理由で、事実上適応度を計測することができない。これに対して、本研究では、現在までに、エゾヒトエグサに次のような上述の問題の解決につながる有利な性質があることを実験によって確認することが出来た:a) 雌雄の配偶子がわずかな異型配偶で、ともに単為発生する;b) 配偶子の形成過程の細胞分裂回数に雌雄ともにばらつきがある;c) 胞子体が全実性で微視的である。さらに、本年度はこれまでに、難しいとされていた培養条件下での遊走子形成の誘導に成功し、今後本研究で目指している定量的なデータを収集することができる目途を立てることが出来た。さらには、遺伝子の塩基配列の違いに基づいて、雌雄を判別することのできる独自の分子マーカーの開発にも成功した。これを用いることによって、次世代の子供の性比等の解析も行っていくことが可能になった。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に得た知見を基にして、研究分担者(吉村)ならびに研究協力者(Cox, Bartelt, Parker)と協力しながら、研究計画に基づいて、定量的なデータ収集へと研究を進めていく。具体的には、以下の2つの問題を定量化することを目指して研究を推進していく:1) (特に同型配偶に近い場合)雄性配偶子が有する資源は接合子の適応度の向上に役立つか?;2) 接合子のサイズが大きい接合子ほどより適応度が高いか?(シグモイド型の関数になるか?)これまでに、ヒトエグサ属海産緑藻では、配偶子は同調的に起こる細胞分裂によって単核の栄養細胞から形成され、雌雄でこの分裂回数に違いがあるだけでなく、雌雄ともにこの配偶子形成過程における細胞分裂回数にはばらつきがあることがわかっている。このため、配偶子形成過程での細胞分裂回数が異なる配偶子を雌雄で組み合わせることによって、サイズの異なる接合子の系列を実験的に作成する。このほか、雌雄の配偶子がいずれも単為発生能を有することも利用する。これらの接合子ならびに配偶子から発生してくる胞子体を成熟させ、形成された遊走子から発生してくる配偶体を計数することによって、次世代の子供の数を調べる。これらの実験から得られる結果をもとに理論研究を行うことによって、実験と理論の間にあるギャップを埋めていく。
|
Research Products
(7 results)