2013 Fiscal Year Annual Research Report

樹木内生菌の伝播・繁殖機構および樹体内共生機構の解明

Research Project

Project/Area Number	25292083
Research Category	Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
Research Institution	The University of Tokyo
Principal Investigator	松下範久東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (00282567)
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha)	呉炳雲東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (10396814) 楠本大東京大学, 農学生命科学研究科, 講師 (80540608)
Project Period (FY)	2013-04-01 – 2017-03-31
Keywords	内生菌 / ブナ / モミ / 共生 / 菌類
Research Abstract	内生菌は，極めて普遍的な植物の共生者であり，しかも種多様性が非常に高いことが知られている。しかし，樹木内生菌の生態特性や共生機能についてはほとんど明らかにされておらず，樹木と内生菌との間の共存機構の実態についても不明な点が多い。本研究では，マツ科やブナ科などの樹木の内生菌の生態特性と共生機能を解明することを目的とする。平成25年度は，房総半島（東京大学千葉演習林）に生育するモミの葉内内生菌の群集構造を調査した。その結果，43種の内生菌が検出され，そのうちの18種がクロワイサイタケ目に属する菌種であった。特にMuscodor sp.がすべての個体から検出された。検出されたクロサイワイタケ目の内生菌は，過去に広葉樹や地衣類の内生菌として報告されているものが多かった。また，Muscodor sp.は，スギ，ヒノキ，アラカシ，シラカシ，ヒサカキなどの内生菌として報告された菌種と近縁であった。以上のことから，調査地域に生息するモミには，宿主範囲が広い内生菌種が優占していると推測された。これまでに国内では，モミ属の内生菌の調査がほとんど行われておらず，特にモミについては，本研究が内生菌相を詳細に明らかにした最初の例である。また，Muscodor sp.は，他の菌種に対する抗菌力が強いことが報告されていることから，本菌が内生していることで病原菌などの他の菌種の葉内への侵入が阻害され，モミの葉の病害抵抗性を高めている可能性がある。一方，埼玉県秩父地方（東京大学秩父演習林）に生育するブナとイヌブナからも内生菌を分離した。現在，DNA解析に基づいた菌種の同定を進めている。
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 3: Progress in research has been slightly delayed. Reason 本研究では，モミの内生菌については，国内で初めて詳細な内生菌相を明らかにするとともに，優占する菌種の菌株を確立するなど順調に成果を得ることができた。しかし，ブナおよびイヌブナの内生菌については，分離される菌株数が多く，DNAを用いた菌種同定にも時間がかかっており当初の目標よりもやや遅れている。また，マイクロサテライトマーカーの作成についても，効率の良く作成するための手法の検討に時間がかかっており，当初の目標であったマーカー作成には至らなかった。しかし，手法の検討はほぼ終わっており，次年度は順調にマーカーを作製できると予想している。
Strategy for Future Research Activity	調査地域のモミの内生菌については，菌類相や優占種を把握できたことから，次年度はそれらの菌種の感染時期や遷移について調査を進める。さらに，沢山の稚樹が更新している場所が見つかったことから，それらの一部を用いて，菌に対する防御反応を人工的に高めたときの内生菌相の変化について調査を進める。調査が遅れているブナ・イヌブナの内生菌については，種の同定を早急に進めるとともに，優占菌についてはマイクロサテライトマーカーの作成を試みる。また，内生菌の葉内動態を明らかにするために，葉内の内生菌を簡便に観察する手法の確立にも挑戦する。
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding	ブナとイヌブナの内生菌の分離率が予想していたよりも高く，菌種の同定に至らなかったため，次年度使用額が生じた。また，マイクロサテライトマーカーの作成方法の検討に予定よりも時間を要し，実際に多くの予算を使用するマーカー作成を次年度に行うことになったため，次年度使用額が生じた。今年度行う予定であったブナとイヌブナの内生菌の菌種同定や，作成方法がほぼ決まったマーカーの作出などに使用する予定である。