2014 Fiscal Year Annual Research Report
難聴の病態理解に資する内耳体液環境の総合的基礎研究
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25293058
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
日比野 浩 新潟大学, 医歯学系, 教授 (70314317)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 真人 新潟大学, 医歯学系, 助教 (60588250)
任 書晃 新潟大学, 医歯学系, 助教 (80644905)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 内耳 / イオン / 水 / 電気生理 / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢化を目前とする我国において、難聴は大きな問題である。将来、難聴の病態生理を解明し、これを克服するために、本課題では内耳蝸牛の基礎研究を行う。特に、+80 mVの高電位と150 mMの高K+濃度を示す特殊体液「内リンパ液」の電気化学環境や水環境の維持機構と生理的意義を実験科学と計算科学の手法を用いて解明する。さらに、それらの破綻と疾患との関連を理解する。 (1)K+輸送の制御機構の解明~内リンパ液の高電位は、内・外2層の上皮からなる血管条を介したK+一方向性輸送により保たれる。このK+輸送は、血管条の各層に分布するイオン輸送分子が機能共役することで達成する。研究代表者は、以前の実験結果を元に、K+輸送と内リンパ液環境を再現する数理モデルを構築していた。H25年度の実験により、不明であった外層基底膜のK+輸送は、主にNa+,K+-ATPaseにより担われることが判明した。この知見に従い、H26年度は、現有の数理モデルを改訂した。外層基底膜は、0 mVに脱分極しており、これが内リンパ液高電位に重要である。改訂数理モデルにより、この膜特性は、Na+チャネルにより達成されていることが予想された。それを実証するため、外層基底膜に低Na+濃度の人工体液を投与したところ、数理モデルの予測と合致して外層基底膜の過分極と内リンパ液電位の著明な低下が観察された。以上より、外層Na+チャネルの存在と生理的意義が判明した。 (2)内リンパ液のヒアルロン酸の解析~血管条のイオン輸送に影響されると予測される内リンパ液のヒアルロン酸の濃度測定と粘性への寄与の解析は、内耳機能の理解に重要である。しかし、内リンパ液は極めて微量のため、採取が難しい。そこで、微小プローブを用いた電気化学的手法により生動物の内リンパ液のヒアルロン酸を測定する系を考案した。予備実験として、炭素を元とした微小電極を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
血管条の外層基底膜の脱分極は、聴覚に必須な内リンパ液高電位の極めて重要な要素である。本年度の研究により、この特性の維持にはNa+チャネルを介した持続的電流が中心的役割を果たすことが判明したが、これは長年に渡って不明であった機序をほぼ説明したもので、聴覚領域にとって極めて重要な成果である。またこの基底膜は、種々の難聴で変性していくことも報告されており、本研究は病態生理学的意義も深い。さらに、一般的な生理学分野としても重要である。外層基底膜は、非興奮性細胞により構成されている。大部分の非興奮性細胞は、膜電位が大きな負値を示す。従って、外層基底膜は特殊である。この電気的特性の成立メカニズムは、非興奮性細胞の新たな概念を創出する可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)改訂した数理モデルを用いて、さらに血管条の外層基底膜の電気化学的特性を分析する。この膜が接する体液のK+やCl-の濃度を変化させた際の、膜電位や内リンパ液電位の動態をシミュレーションし、実際の実験の結果と比較する。この研究により、外層基底膜にどのようなチャネルが発現しているかが理解される。また、H26年度に同定したNa+チャネル阻害時の蝸牛の環境を予測し、種々の難聴動物の結果と比較することで、新たな病態生理過程を示す。 (2)K+などのイオンが輸送されると、浸透圧の変化により水が移動すると想定される。(1)により精密化した数理モデルに、水の動態の数式を結合することで、内リンパ液容積を再現するモデルを構築する。 (3)外層に発現するK+輸送分子およびNa+チャネルの活性を、単離した細胞で確認する。外層細胞は形状が複雑であり、単離しても他の細胞と区別することが困難である。従って、生きた細胞をナノメートル単位で描出する「イオンコンダクタンス顕微鏡」の開発を進める。今までに、基本的な観測系は調整されてきている。可能であれば、この系に電気生理学的測定法を搭載し、目的を達成したい。 (4)血管条や内リンパ液のpH動態は、K+輸送や内耳機能との関連が指摘されていながら、ほぼ不明である。従って、種々のH+輸送分子の阻害薬を生動物の内耳に投与し、電気生理学的に内リンパ液のpHや聴力を測定することで、その生理的意義を検討する。 (5)内リンパ液のヒアルロン酸の濃度や粘性を、サンプリングした上で使用する古典的な手法や、現在開発中の新たな電気化学的手法で測定する。そして、(1)~(4)の結果から構築する数理モデルにさらに組み込む。 (6)(5)の統合数理モデルを用いて、新たな難聴の機序を予測し、そのモデル動物の作成に着手する。
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Causes of Carryover |
前年度に行われた研究指導に対する謝金の支払いが、本年度4月以降になってしまったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
謝金は既に支払われた。
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