2014 Fiscal Year Annual Research Report
コエ・クワディ語族カラハリ・コエ語派の言語学的ドキュメンテーション
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25300029
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
中川 裕 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (70227750)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 言語学 / コイサン / 言語類型論 / 危機言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は昨年度までに蓄積してきたサンプル言語(グイ語、ツィラ語、ハバ語、ツィハ語、シュア語)の1次資料を対象として、グイ語とツィハ語についてはとくに文法的分析が、ツィラ語とハバ語とシュア語については語彙の収集と分析が進展した(グイ語調査結果から予測されていたカラハリ・コエ表意音語クラスが、シュア語に確認され、その資料収集に成功したことは特筆に値する)。考察結果の一部を国際シンポジウムで発表しフィードバックを得た。それと同時に、研究代表者と連携研究者はボツワナ共和国ハンシー県での現地調査を実施し、資料の敷衍と拡大を行った。 文法研究における成果を具体的に挙げる。グイ語は、アスペクト体系の全体像が浮かび上がり、南西カラハリ・コエ小語派のなかでもっとも豊富なアスペクト目録(10種類のアスペクト小詞)を持つ一方で、体系中核部分は、より小さいアスペクト目録をもつ他のコエ諸語(例えばコエコエ)と類型論的に同じ構造をもつことが分かった。また、グイ語は時制とアスペクトの形態素が柔軟に組合わさる点、テキスト内では絶対時制と相対時制とが共起しうる点から、高度に分析的な体系をもつことが明らかになった(これらの知見は、研究代表者、連携研究者が7月に第5回国際コイサン言語学シンポジウムにおいて発表)。このトピック以外には、グイ語、ツィハ語、クエ語、シュア語について、コエ諸語独特の構文である「連結辞構文」の形態統語論的構造および統語意味的特徴(意味イベント統合装置としての機能)に関わる資料収集を行い分析を進めた。また、同定・認定の小詞を用いる構文の体系的な資料を収集した。海外研究協力者の一人は博士論文としてツィハ語文法を執筆し、そこには本研究の成果も多く盛り込まれており(とくに、研究代表者によるグイ語調査結果との構造的な比較の議論)、これも本研究の成果の一部である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象であるコエ・クワディ語族カラハリ・コエ語派の3語群を代表するサンプル言語の資料収集がバランスよく順調に進み、また、構造的特徴とその変異パタンについての新知見が予定通り蓄積されてきた。その新知見にもとづく考察により、サンプル言語が示す類型論的な特色が音韻論および形態統語論において明らかになってきた。たとえば、語根を構成する音節の非常に特殊な歪んだ弁別的特徴の分布や、そのコイサン諸語全体における特殊性(とくに第1母音の喉音素性の単純さ)、時制小詞とアスペクト小詞の体系上の構造的特殊性、PGN表示小詞の歴史的変化による変異パタン、連接辞構文のもつ意味イベント統合の機能、コイサン諸語においては独特の発達をとげた表意音の存在とそれを文法に組み込む形態音韻論および形態論的装置などである。 これらの発見にいたる資料収集と分析の過程で、同時に進めている語彙およびテキストの収集と文書化も、複数のサンプル言語において、予定通りの進捗が認められる。 したがって、現在までの達成度はおおむね順調とみなすことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を構成する下位課題の進捗をそろえるために、次にあげる課題を優先・強化する:(1)ハバ語、ツィラ語の語彙データの拡大収集とその整備・分析とその文書化を推進すること、(2)シュア語の特殊語彙コーパスを整備し、他のサンプル言語との比較をすること、(3)シュア語音声学・音韻論の資料収集を拡大し音韻体系の記述を整備すること(4)ツィハ語とグイ語のテキスト・コーパスの整備をすること、(5)グイ語の形態論・統語論の全体的骨格と類型論的特色を描く文法大概を書き上げ、将来編纂予定の大規模文法記述のための枠組みを具体化すること。 また、すでにもたらされた成果は積極的に学会、学術誌、学術図書として公表する。2015年8月には京都大学で世界アフリカ言語学会が開催されるが、そこで研究代表者は「コイサン言語学ワークショップ」を主催し、研究代表者・連携研究者および海外研究協力者3人が、それぞれ本研究課題の成果の一部を発表することが決まっている。
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Causes of Carryover |
旅費の航空券代が予想よりも安価で入手できた(香港経由便価格が現地の事情で一時的に下降)。また、資料整理や編集補助のためのアルバイト謝金が大学の教員研究費によってカバーできた。投稿が決まっていた論文集の編集スケジュールが変更となり、英文校閲のタイミングが次年度に送られた。語彙資料の予想外の拡大があり、その整理に予定よりも時間を要し、それを編集校閲する業者への依頼が次年度にのびた。以上が次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に見送った成果発表のための英文校閲費と拡大語彙資料の整理・編集・加工・文書化の支援のための人件費および語彙コーパスにおける英語版意味記述の英文校閲を比較的多く見込んだ予算配分をして研究を進める。(なお、調査旅費のための航空券は例年の価格を見込んでいる。)
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Research Products
(4 results)