2013 Fiscal Year Research-status Report
神経毒生産ラン藻Cuspidothrixの生態と分子系統地理学的研究
Project/Area Number |
25340015
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
程木 義邦 慶應義塾大学, 経済学部, 助教 (60632122)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 伸一 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (50270723)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ラン藻 / 神経毒 / 生理生態 / 分子系統地理 |
Research Abstract |
日本全域におけるCuspidothrix issatschenkoiの分子系統地理学的関係を評価することを目的とし、平成25年度は主に現地調査と本種の単離培養を行った。C. issatschenkoiが優占する6月から12月にかけ、日本全国の103カ所の湖沼でサンプリングを行ったところ、北海道、東北および関東地方の計8カ所の湖沼で本種の優占が確認できた。一方、近畿から九州地方の20カ所の湖沼でも調査を行ったが、顕微鏡観察では本種の存在が確認できなかった。C. issatschenkoiの生育域は亜寒帯から温帯域であることが従来から指摘されていたが、日本ではより平均気温が高い西日本での出現頻度が低く、近畿地方から中国地方付近に分布の西限がある可能性が示唆された。また、本種の優占が確認された北海道、青森および秋田県の4カ所の湖沼から計88株、東京都内の4カ所の池沼から計30株を単離し系統培養株を確立した。これらの株は、今後、Multilocus sequence typing (MLST)法による分子系統解析に用いる。 C. issatschenkoiの生理生態学的特性については、本種の生育が確認された東京都内の4つの池沼を対象として定期観測を始めた。また、単離培養株および既知の16S rDNAの塩基配列を元にC. issatschenkoiに特異的な定量PCRマーカーを開発した。本種のアナトキシンa生産株に特異的なマーカーは既に開発済であるため、今後、この2つのマーカーを使うことにより、形態では同定が困難な有毒株と無毒株について、自然湖沼における存在比と動態も評価が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度はCuspidothrix issatschenkoiの分子系統地理学的解析を行うため、本種の単離株が得られていない東日本を中心に調査を行った。その結果、当初の計画通り北海道、青森および秋田県の4カ所の湖沼から単離株を得ることが出来た。また、中国地方および九州地方についても現地調査をおこない、近畿地方から中国地方付近に本種の分布の西限があることが推定された。この点については、今後、定量PCRマーカーを用いDNAレベルでも解析し検証を行う必要があるが、今年度の調査により、日本における本種の分布を、単離株およびDNAレベルの両方で評価できるようになったのは大きな成果といえる。 また、上記の調査で得られた単離株を用いMLST解析を行うため、平成25年度は解析に用いるハウスキーピング遺伝子の選定を行う予定であったが、この点については年度内に終えることが出来なかった。一方、16S rDNAを標的としたC. issatschenkoiに特異的な定量PCRマーカーが開発できた。このことにより、形態では同定が困難な有毒株と無毒株の存在比と動態の評価が可能となったことも非常に大きな成果といえる。また、東京都内の4カ所の池沼で本種の生育が確認されたことから、次年度から行う予定であったの本種の生理生態学的特性の解明を目的とした定期調査を開始できた。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には申請時の計画通り研究を進める。平成26年度については、平成25年度からの継続と共にCuspidothrix issatschenkoiの生理生態学的特性につい研究を行う。平成25年度に行う予定であった。MLST解析に用いるハウスキーピング遺伝子の選定を行った後、確立した系統株のMLST解析を行い、日本におけるC. issatschenkoiのアナトキシン-a生産株と無毒株の分子系統地理学的特性について評価を行う。 また、湖沼調査については、平成25年10月よりC. issatschenkoiが単離された東京都内の4カ所の池沼を対象とした定期調査を行っている。今後も調査を継続し、本種の現存量および栄養塩濃度や水温等の環境要因の評価を行う。特に、16S rDNAを標的としたC. issatschenkoiに特異的な定量PCRマーカーが開発できたため、形態では同定が困難な有毒株と無毒株の定量が可能となった。これらのマーカーを用い、自然環境下での有毒株と無毒株の生理生態学的特性の評価を行う。また、既に開発しているアナトキシンa生産株に特異的な定量PCRマーカーを用い、自然湖沼におけるアナトキシンa生産遺伝子の発現量についても評価を行い、自然界におけるアナトキシンaの本来の機能や本物質生産の適応的意義についても研究を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度中にMLST解析に用いるハウスキーピング遺伝子の選定を行う予定であったが、年度内に終えることが出来ず、平成26年度も継続して行うことになった。そのため、遺伝子組み換えやDNA解析に用いる試薬類の購入費が予定よりも少なくなった。これらの試薬は消費期限が短いため、平成26年度に繰越し、上記の作業に必要な消耗品の購入費に充てることとした。 平成26年度も引き続き行うMLST解析のハウスキーピング遺伝子選定の際に用いる遺伝子組み換えおよびDNA解析の試薬類(消耗品)の購入費に用いる。
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