2013 Fiscal Year Research-status Report
『啓蒙の弁証法』読解と、その前史・後史をふまえた、近・現代「社会思想史」の刷新
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25370080
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高幣 秀知 北海道大学, -, 名誉教授 (00146995)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ハイデルベルク美学論稿 / 歴史と階級意識 / 啓蒙の弁証法 / 否定弁証法 / 美的理論 / ヘラー / ホネット |
Research Abstract |
25年度については第二課題として設定した「ルカーチvsアドルノ問題再考」に関する研究作業に集中した。論稿は三部にわかれる。 1)「第一回マルクス主義研究週間」1922年説が誤りである論拠の主たるものは、ルカーチ『歴史と階級意識』の執筆事情、福本和夫の証言などであり、1923年から1930年ホルクハイマーの所長就任までのあいだを、社会研究所の歴史の単なる空白期間とすることはできない。また、アドルノによる『歴史と階級意識』への書き込み、1925年ウィーンでのルカーチとアドルノとの会見の記録などから、後者の前者にたいする共感と異和とが特定される。アドルノによるルカーチ批判『強制された和解』(1958年)の背景には、ホルクハイマーの立場からの指示が介在していた、というヘラーの教示は説得力をもつ。 2)ホルクハイマーとアドルノの共著『啓蒙の弁証法』における、実在的自然の圧倒的威力が社会的支配による強制連関へと転位されるという把握、アドルノの『否定弁証法』における、同一性強制とその解除への方向づけ、そして同じくアドルノの『美的理論』における、芸術作品と自然美にたいする感受性の位置づけ、これら三者が三極構造をなしつつ、啓蒙の「積極的概念」を準備しようとするものであること、同時に他方ではしかし欠落部分をのこしていることを論定する。 3)ヘラーの証言によれば、1968年アドルノのほうからルカーチにたいする和解の申し出があったにもかかわらず、ブロッホの介入により「和解」は実現されなかった。両者の理論的立場の相違の背景には、時代経験の相違があるが、全体主義にたいする批判という局面においては合流する次元が開かれている。この可能性をアドルノ「感受性の現象学」、ルカーチ「美学の現象学」の構想にそくして検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」に記したように、昨年度は研究課題(2)を先行させたため、課題(1)、課題(3)については、著しい達成度を云うことはできない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題(1)『啓蒙の弁証法』読解プロジェクトについては、合同研究会を26年度中に開催するなどして、研究体制の加速をはかる方針である。 課題(3)『社会思想史論選』については、1)ウォーラーステインの著作、2)近年のルソー研究、3)日本ファシズム関係文献等、これまでの研究の欠落部分を補う知見を得ようとしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画(2)「ルカーチvsアドルノ問題再考」に集中したため、また海外出張を差し控える事情にあったため、当初予定していた経費を使用することができなかった。 26年度は、課題(1)『啓蒙の弁証法』読解プロジェクトにかかわる研究集会を複数回開催する予定である。また、フランクフルトおよびブダペスト等への海外出張をも予定している。
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