2015 Fiscal Year Research-status Report
分析書誌学と出版史的方法による近代日本における書物の制度化の解明
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25370217
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
鈴木 広光 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70226546)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
磯部 敦 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (00611097)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 日本文学 / 分析書誌学 / 出版史 / 活字印刷 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)研究代表者(鈴木)の本年度の研究成果は以下の通りである。①明治期出版物の制度化の一要素として特に活字書体の標準化について考察した。標準化の契機は明朝体活字の導入にあり、既に前年度の成果の『日本語活字印刷史』で述べたが、特定の文体やジャンルからの遊離の条件は既に幕末の板本において整えられつつあった。そのことの意味を平田派国学の気吹舎塾が幕末から明治初めにかけて出版した書物を調査し、版面に展開された当時としては特異な(現在のゴシック体のような)印刷書体を中心に考察し、論文「切断の文字、あるいは文字の〈近代〉」(印刷中)と題する論文にまとめた。活字書体の標準化とジャンルからの分離については、日本出版学会関西部会において「書字の論理/活字の論理」(2015年6月)でも発表した。②活字印刷に適した漢字書体とはどのようなものであるかを考察する「普遍の文字、臨場の文字 ―印刷史から見た欧陽詢とチョ遂良」を発表した。 (2)研究分担者(磯部)は明治初期の出版物における異版、異本の生成を、書物制作における編輯のあり方や紙型使用という印刷方法の観点から調査分析し、その成果を論文「「歴史を「編輯」する―群生する『近世太平記』『明治太平記』の内と外―」、「紙型と異本」(印刷中)、十九世紀文学研究会における口頭発表「紙型と異本―『徳川十五代記』『明治太平記』の刊・印・修―」(2016年3月)において公表した。 (3)研究分担者と代表者は昨年度に引き続き、明治期出版物を分析書誌学的に記述するための示差的特徴を抽出するため、有象無象の異なる出版社で明治19~20年に数多く出版された末広鉄腸『二十三年未来記』の異版を調査、現物購入し、整理を施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
明治期出版物(書物)の制度化に関して、活字書体、約物記号類、版面のレイアウトなど形態面の標準化については当初計画通り進展している。また出版史的考察の要である異版、異本の生成のプロセス(これは反制度的側面も含んでいる)についても、「編輯」や紙型使用という観点からかなりの程度明らかになり、当初計画通り進展している、国立国会図書館近代デジタル・ライブラリーの画像から書誌データをどの程度正確に取ることが出来るかという課題は、昨年度同様、データ入力者を確保できないという環境的事情から、研究代表者がサンプル的に入力している状況である。これは昨年度から研究方法、方針の変更として既に記したところであるが、当初計画からは成果を上げられていないため、全体として上記の自己評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は以下の二つの課題についてまとめを行う予定である。①同一テクストの諸版の形態による特徴の記述と、テクスト受容との関係に関する分析書字学的考察および出版史的考察を合わせたものを研究代表者と分担者で公表する。② ①および『二十三年未来記』諸版の整理過程で抽出された書誌項目の示差的特徴によって、どの程度まで明治期二十年代までの書籍が記述できるかを提唱する考察を口頭発表、論文の形で公表する。『二十三年未来記』については、余力があればさらなる問題提起として大量異版の出現の意味及び社会的影響についても出版史的観点から考察したい。
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Causes of Carryover |
『二十三年未来記』諸本の国立国会図書館等における調査を計画し、調査旅費を予定していたが、東京の各図書館に所蔵される版と同一と確認される原本を古書店から安価でまとめて購入することができたので、その差額が次年度使用額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
学会で共同で発表するための打ち合わせの目的で、研究協力者を二回(1泊2日)を奈良に招くことを予定しており、次年度使用額を主にそのための旅費として使用する予定である。
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