2013 Fiscal Year Research-status Report
ルーマニア・ドイツ語文学にみる二つの「過去の克服」―ナチズムと社会主義独裁―
Project/Area Number |
25370337
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤田 恭子 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (80241561)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 道男 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (20187769)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ルーマニア / ドイツ / ホロコースト / ナチズム / 秘密警察 / チャウシェスク / 文化産業 |
Research Abstract |
本研究は、チャウシェスク体制崩壊直前から現在に至るルーマニア・ドイツ語文学の動向を整理し、同文学がナチズムと社会主義独裁という二つの「過去」とどのように向き合い、その「克服」を目指すなかで、どのような文学的表象を生み出しているかを解明しようとするものである。 平成25年度は、主に以下の作業を行った。1)1980年代以降に発表された作品の収集と整理。ヘルタ・ミュラーやエギナルト・シュラットナーをはじめとするルーマニア出身のドイツ語作家のテクストを収集し書誌情報等の整理を進めた。2)ナチズムおよび社会主義独裁体制下での秘密警察に関わる作品の分析。ミュラー、シュラットナー、クラウス・シュテファーニのテクストを中心に分析を進めた。3)上記2)の分析と合わせて、ルーマニアにおけるナチズムおよび社会主義独裁体制とドイツ系住民との関わりについて、各作家が抱えている問題意識についても考察を行っている。 なお、この過程で、第二次世界大戦中に5万人を超えるドイツ系ルーマニア人がナチ武装親衛隊に入隊し、ユダヤ系ルーマニア人の強制移送と殺戮に関わった歴史的事実の解明が現在もなお不十分であることを改めて認識せざるを得なかった。そのため、とりわけ積極的にナチズムに関わったトランシルヴァニア地方のドイツ系作家を担当する研究分担者が、当時トランシルヴァニアで刊行された新聞や文化雑誌を多く収蔵するオーストリア国立図書館で資料収集を行った。これらは、上記の作家たちが描く第二次世界大戦中の状況を分析する際に、重要な参考資料となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者と研究分担者は、当初の計画を進めるなかで、第二次世界大戦中のドイツ系ルーマニア人のナチズム関与の歴史がルーマニアのドイツ系マイノリティやルーマニア出身のドイツ系研究者にとってタブーであったため、歴史的事実の解明が非常に遅れているとの認識を改めて確認することになった。そのため、ルーマニア・ドイツ語文学の作品分析と並行し、作品の正当な分析評価を可能とするため、ナチズム受容の歴史についてもさらなる資料収集と分析が必要との認識に至り、この点についての資料調査も平成25年度の研究計画に組み込むこととした。研究分担者はオーストリアでの追加調査とルーマニアでの調査を行う予定だったが、大学運営にかかわる重要な役職に就いていたことから、日程の調整が難しく、作品分析の重要な資料となる史実の追加調査を優先させることとした。当該役職の任期は平成25年度末までであり、この状況はすでに解消されている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、ルーマニアにおけるナチズム受容に関わる追加調査で収集した資料の分析と並行して、当初の研究計画通りに作業を進めることができる見込みである。研究分担者は、トランシルヴァニアのシビウでシュラットナーを中心とするドイツ語作家たちの未刊行資料を閲覧し、情報を掘り起こすと同時に、作品分析を続ける。研究代表者はミュラーとシュテファーニの作品を中心に分析を続け、またシュテファーニが2010年11月に『フランクフルト一般新聞』紙上に掲載した、秘密警察への協力を迫られた過去を告白した記事とそれに対する反論記事等についても分析を開始する。この事案について、関係者に直接インタヴューが可能であるかどうかを探っていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は資料の収集と整理を行うかたわら、作品分析に着手したが、海外での資料収集を予定していた研究分担者が、大学運営にかかわる重要な役職に就いていたことから、日程の調整が難しく、計画通りの期間で出張することが難しかった。当該役職の任期は平成25年度末までであり、この状況はすでに解消されている。 平成25年度に実施する予定であったルーマニアでの調査を、平成26年度に行う予定である。平成26年度に予定している作業については、資料の収集整理や現地での調査も含めて、計画通りに進行させる。
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Research Products
(4 results)