2017 Fiscal Year Research-status Report
シティズンシップ論へのコミュニケーション学的アプローチの模索
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25370724
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
藤巻 光浩 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (50337523)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山脇 千賀子 文教大学, 国際学部, 教授 (40302343)
青沼 智 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (50306411)
森泉 哲 南山大学, 国際教養学部, 教授 (60310588)
福本 明子 愛知淑徳大学, グローバル・コミュニケーション学部, 教授 (70387835)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 齟齬(ディセンサス) / シティズンの顕れ / アート教育 / 共通善 / 公共圏 / 精神的健康 / 社会的充足感 / 集会・街頭演説 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、一年延長するとはいえ、予定通り「成果の発信期」としての時間を送ることができた。日本コミュニケーション学会中部支部大会を利用し、それぞれが成果報告を口頭で行うことで総括とした。シティズンシップ教育においては、何がシティズン(=市民)であるのかを自明のものとすることなく、どのような条件の下に市民が顕れるのか、そのための条件を明確にし、さらなるコミュニケーションが生まれる中に求められるべきであることが共有された。 個々の研究成果は以下の通りである。藤巻は市民教育を担う近代ミュージアムにおいて、シティズンシップ教育は展示内容や発信機能だけに注目が集まりがちであるが、オーディエンスが持つ期待との間に生じる齟齬(ディセンサス)に着目する視座が必要だと結論付けた。また、山脇はアートを通じたシティズンシップ教育の実践を紹介し、例えばペルーにおける多様なバックグラウンドをもつ人々のための教育プログラムが教育省などによって積極的に展開されており、そこで生まれる多様性が生み出す齟齬についてコミュニケーションを交わすことが、シティズンシップ教育において効果的であると論じた。 青沼は、いわゆる「311」以降、東京近辺で頻繁・定期的に行われるようになった集会・街頭演説会などの多種多様なコミュニケーション形態を、主に参与観察的な方法論により分析し、そこで生じる異議申し立ての分節化を通じて、市民参加が共通善の下に組織され得ることを論じ、公共性の重要性を指摘した。森泉は、アンケート調査を行い、社会参加を促す規定因に関して,個人及び家族要因の視点から検討し,さらに社会参加の帰結として精神的健康への影響について検討を加えた。その結果,社会参加を促進する要因として,自己効力感ならびに家族との自由な議論が正の影響を及ぼしていることが見いだされた。また社会参加は社会的充実感を促すことも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の成果は、申請時にも記したように、教育モデルを提示することであった。その成果の一部として、教科書を出版することとなった。本研究チームとしては最終年度内に出版することを目標にしていたが、諸事情で出版が遅れてしまった。これをもって、「やや遅れている」と判断した。結果的に、研究期間を1年延長して出版することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は一年延長することになったが、最終年度となる2018年は、教科書出版というかたちで成果を公開することになる。その教科書を出版して、本研究が当初掲げた目標(=「「シティズンシップ論としてのコミュニケーション教育」を政治哲学に引きつけて考察し、現代社会の多様化に応え得る教育モデルを提示すること」)の一部が達成されることになる。 以下の三点を研究代表者である藤巻が主に遂行することで、本年度は本研究を盤石なものとしていく。第一に、成果の公開を準備するにあたり、誤謬がないように(必要であれば)調査地に赴き、関係者たちに内容を再度確認する作業を行う予定である。 第二に、一つ目の作業と同時進行となるが、成果を準備する中で、シティズンシップ教育とコミュニケーション学の交錯点における、本研究にとっての課題も見つけていく予定である。 第三に、本研究の課題を見つける中で、次年度以降の研究のための「問い」も見出していく予定である。本研究の今年度の結論は、(多様性やメディアに固有な構造などから生まれる)齟齬に関するコミュニケーションこそが、シティズンシップ概念を将来に向かって開くことができる、ということであったが、どのような文脈の下に可能になるのか、多様な局面が存在するだけでなく、人の移動もさらに活発になりつつあるため、まだ見ぬ将来のシティズンシップの在り方を容易に予見することはできないことも推察される。この意味で、何がシティズンシップを構成するのかといった齟齬は常に顕在化されるべきであり、そこにおいてこそ「市民」が顕れ得るし、シティズンシップ教育の在り方も変化し得る。よって、これまでの成果を踏まえ、齟齬が生まれることで生じる「問い」を見出し続けることが重要である。
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Causes of Carryover |
1.本研究の成果として教育モデルを提示する目標を掲げていたが、その成果としての出版が諸事情により遅れたために、更なる時間が必要となったため。 2.共同研究者の1名が子の養育のため予定していた出張をとりやめることになり、研究遂行に遅延が生じたため。
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Research Products
(8 results)