2014 Fiscal Year Research-status Report
「境界」の島対馬の朝鮮人社会に関する総合的研究(19世紀後半~1960年代)
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25370796
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
愼 蒼宇 法政大学, 社会学部, 准教授 (80468222)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
檜皮 瑞樹 早稲田大学, 大学史資料センター, 助教 (00454124)
鄭 栄桓 明治学院大学, 教養教育センター, 准教授 (90589178)
宮本 正明 立教大学, 立教学院史資料センター, 学術調査員 (20370207)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 境界 / 在日朝鮮人 / 対馬 / 朝鮮半島 / 植民地支配 / 南北分断 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、第一に「史料の調査・整理」を行い、さらにはその史料の分析・検討を行なう年であった。史料調査は二回に渡って行い、1回目は2014年8月5~8日に行った。ここでは、時間を要する対馬歴史民俗資料館における対馬島庁文書の引き続きの史料収集・検討作業に加え、壱岐での巡検・史料調査を行った。壱岐では具体的に一支国博物館と市立郷ノ浦図書館で、行政資料・新聞その他文献の調査を行った。二回目の史料調査は、2015年3月1~5日に行った。長崎では3月1日に長崎県立図書館で1920年代の『長崎新聞』『東洋日の出新聞』の調査を行ない、2日は長崎歴史文化博物館の資料閲覧室が保管する行政史料の調査を行った。3~4日においては対馬歴史民俗資料館において、引き続き膨大な「島庁文書」の写真撮影、史料検討に入った。「史料の調査・整理」は、まず長崎県立対馬歴史民俗資料館における二度の調査で、「対馬島庁文書」の閲覧、目録の整理、記録、撮影をほぼ終えることができた。史料調査を通じて、以下の点に関する知見を得ることができた。 第一に、「島庁文書」からは、すべての年は網羅できていないが、1885~1926年の人口統計から対馬の各村ごとの人口の推移を把握することができ、1926年度の国勢調査から当時の各村の朝鮮人人口数の統計を発見することができた。また渡航者帰国者に関する統計や、明治期の庶務統計、伝染病患者台帳などから、対馬島における朝鮮人の流入とその特徴を理解する手掛かりを得ることができた。これは今までの研究で明らかにされてこなかった点であり大きな発見であるといえる。第二に、長崎や壱岐における新聞・雑誌の調査から、1920年代を中心に、対馬の朝鮮人の動向、とりわけ炭焼や日雇い労働をめぐる記事を多く発見し、当時の朝鮮人の様相に今まで以上に接近することができた。これも大きな成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は「史料の調査・整理」を引き続き行ない、それを「分析」に結びつけるという予定であった。昨年度も述べたとおり、579個に及ぶ「対馬島庁文書」の閲覧、目録の整理、記録・撮影は相当の時間を要するものであり、まだすべてを閲覧できたわけではないが、目録の整理をもとに、本研究に必要と思われる優先順位の高い簿冊31点については記録、撮影を終えることが出来た。 また、対馬市以外の長崎県の史料調査についてもおおむね順調に史料収集を進めることが出来た。まず、対馬の隣にある壱岐において、行政編纂史料、新聞、その他文献資料の調査を行なった。一日しか調査時間がなかったため、その成果はまだまだ不十分である。引き続き、史料の調査・整理を行なう必要がある。長崎市では長崎県立図書館と長崎歴史文化博物館で、『長崎新聞』『東洋日の出新聞』と、行政史料の調査を行った。行政史料としては、対馬の明治期の各村の戸数調などを発見することができた。『長崎新聞』『東洋日の出新聞』についても、重要な記事をいくつも発見することができた。このように大きな成果を得ることが出来たのだが、行政史料についてはそれ以上の成果がなく、また新聞についてはまだ他の時期についても引き続き調査をする必要がある。植民地期の民族運動の雑誌・新聞の調査も進め、『毎日申報』『東亜日報』において、対馬の朝鮮人の動向に関する重要な記事を発見することが出来た。 ほかにも研究代表者、分担者それぞれが上記した作業目的に関する史料調査を行なって成果を得ており、おおむね順調に「史料の調査・整理」は進んでいると言える。 そして、「分析」については、4人での史料調査・整理を行なう中でミーティングを常に行ない、史料の解析を進めはじめた。とはいえ、この点については、他の研究成果とも突き合わせるなど、より多くの時間が必要であり、まだ途上である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、研究総括の年度であり、3年間の研究成果のまとめに入る年である。ここまで行なってきた史料調査の成果に基づき、植民地期、解放後双方の時期において史料の分析とまとめを行なうために、数回の研究会を行なう。 19世紀末から植民地期にかけては、長崎市、福岡県などにおける行政史料、新聞などの史料調査がまだ残っているので、一度行なう予定であり、さらに民族運動関連の史料調査も行なう。その成果を一年かけてまとめていく。解放後~1960年代にかけては、占領期のGHQ関連資料、とくにプランゲ文庫(国会図書館憲政資料室)には、検閲された在日朝鮮人運動関連の資料が多く存在するので、これらの資料を再検討するとともに、関係者へのインタビュー・録音記録を整理し、その成果を一年かけてまとめていく。後者においても長崎市、福岡県などでの史料調査がまだ残っており、一度行なう予定である。 また、対馬市内の各自治体編纂史料ももう一度再検討する。その上で、年度末をめどに、対馬市をフィールドとし、①日本政府(内務省・外務省)レベルの対朝鮮・朝鮮人政策の展開、②現地対馬(および長崎)における行政や産業界による対朝鮮、対朝鮮人政策の展開、③移住朝鮮人と対馬の日本社会との生活空間での接触、④移住朝鮮人による、対馬での社会形成や対馬を越えたネットワークの形成、アイデンティティの変化、の4点についての研究成果を整理する。
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Causes of Carryover |
平成27年度においても史料調査・整理が必要であり、それに関連して旅費を少し確保しておきたいことや、物品費等(とくに書籍)にも多少の余裕を残しておきたいとの判断からである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
史料調査での旅費、物品等購入での使用。
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