2014 Fiscal Year Research-status Report
16-19世紀におけるトスカナの封建貴族層とその社会的役割
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25370876
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
北田 葉子 明治大学, 商学部, 教授 (30316161)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近世史 / 封建貴族 / イタリア / トスカナ大公国 / フィレンツェ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ブルボン・デル・モンテ・サンタ・マリア家を中心に調査を進めた。ブルボン家は本研究において対象としている封建貴族の中でももっとも古い歴史を持ち、国際的な権威という点でももっとも高位にある一族であり、彼らとトスカナ大公国との関係は、貴族と君主の関係という点で非常に興味深いものであった。 16世紀の半ばまでに、新しくできたメディチ家の君主国とブルボン家は良好な関係を築いていた。両者の間で交わされた書簡から、ブルボン家が教皇庁に責められるかもしれないという危機の際に、メディチ家の君主に頼ったことから始まったことが明らかになった。その後、さまざまな問題においてブルボン家はメディチ家を頼ることになる。一族間の争いにおいても、仲裁者として選ばれたのはメディチ家の君主であった。彼らはフィレンツェ人の社会にはなじまず、フィレンツェ人と姻戚関係を持つこともあまりなかったが、君主とは良好な関係を築き、彼らに依存していたのである。このような関係は、近世における君主を中心としたネットワークを考えるときに重要な意味を持つ。ある程度強力な君主がいれば、高位の封建貴族も彼らのネットワークのもとに入り、そこから大きくはみ出すことはしない。ブルボン家は分家も多くあるため、他の君主や教皇に仕える者もいるが、彼らもまたメディチ家の君主に情報を送っている。もちろん、軍人や宮廷人としてメディチ家に仕える者もいる。ブルボン家は皇帝から封土を得た貴族であるが、彼らにとっては、皇帝ではなくメディチ家の君主は彼らのネットワークのトップに位置していたのである。近世的な国家の形成期において、封建貴族も自らと国家の関係を変化させていたと言えるだろう。 以上のように、本年度の成果は、近世の貴族研究および国家研究に新たな知見を提供するものであったということができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は16世紀のブルボン・デル・モンテ・サンタ・マリア家についての史料調査をほぼ終了させることができた。またブルボン家についての研究書も入手し、近代までの一族を歴史の概要を知ることができた。史料の読み込みはまだすべて終わったわけではないが、3分の2は終了しており、彼らと君主の関係についてはほぼ理解することができた。 また読み込みはほとんど終わっていないが、アリドーシ家についても彼らが君主にあてた書簡を入手することができた。また史料目録の調査から、17世紀後半における皇帝と封建貴族の問題に光をあてることができると思われる史料も見つけることができた。さらに、18世紀におけるバルディ家と皇帝の関係に関する論文も入手した。 また本年度は、本研究が対象としている4つの封建貴族家門の中で、軍事役職についた者についての調査を行う予定であった。ブルボン家、バルディ家、アリドーシ家については、各家の歴史を長いタイムスパンで扱った研究書を入手することができたので、軍事役職に就いた者と騎士団員になったものは、ほぼ判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査で、ブルボン・デル・モンテ・サンタ・マリア家とバルボラーニ家は、16世紀において密接な関係にあったことが判明した。両者のネットワークは、当初は研究の対象とはなっていなかったが、封建貴族間のネットワークはトスカナ大公国における貴族の実態や役割を目的とする本研究において重要なものであると考える。次年度以降、この点も考慮に入れて研究を進めていきたい。 また近世の封建貴族についてはこれまで研究があまり行われておらず、とくに封建貴族の少ないトスカナの封建貴族は1970-80年代にいくつかの研究が出て以後、ほとんど行われていなかったが、近年になって再び注目されつつある。近世の封建貴族、とくにトスカナの封建貴族についての研究史も、きちんとまとめ直すことが有意義であると考えている。 これ以外については、研究計画に大きな変更はなく、引き続き研究対象である四家について、史料調査を継続していく予定である。
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Causes of Carryover |
春期休暇中にイタリアで史料調査を行ったが、航空運賃および宿泊費が考えていたよりも安く済んだことが理由の一つである。 また春期休暇中、とくに3月以降は、研究にもっとも集中できる時期であり、実際にこの時期に多くの図書を購入した。しかし3月初めにいったん会計は閉じられてしまうため、「次年度使用額」として残さざるを得なくなったのが第二の理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
理由の箇所で書いたように、会計が閉じられて以降に多くが書物を購入したため、すでに次年度使用額とした分の多くを消費している。また余剰があれば、夏季期間中における史料調査のためのイタリア滞在の期間を延長するために使う予定である。
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