2015 Fiscal Year Annual Research Report
ボルネオ民族意識形成へのキリスト教ミッション活動の影響に関する社会人類学的研究
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25370941
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
石井 眞夫 三重大学, 人文学部, 名誉教授 (20136576)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 民族対立 / 植民地主義 / ポスト・コロニアル / キリスト教布教 / 都市化 / 近代化 / 国民国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、急速な近代化の中で都市化と民族意識の高揚が進むボルネオ、中でも経済発展が著しいマレーシア領ボルネオを主たる対象として、植民地期以降熱心に布教を続けてきたキリスト教諸教派の活動がどのように近代化に寄与し、民族意識の形成と高揚に影響を与えてきたかを、現地調査を通じて社会人類学的視点から明らかにしようとしてきた。 本年度は、前年度の引き続きイギリス植民地期のキリスト教布教に関する資料を収集するとともに、サラワク州都クチン市とその周辺地域を対象にこれまでの研究を補足する現地調査を実施した。マレー半島からの影響が強い海岸平地部や都市とその周辺幹線道路沿いを除くと、内陸部の村落ではキリスト教会活動は活発である。イスラム教を国教とするマレーシアの中で例外的にキリスト教徒が優勢なサラワク州だが、これまで目立った宗教対立が起きたことがない。しかし連邦政府のイスラム化政策は強力に進められており、現地キリスト教会の活発な活動を見るなら宗教対立とこれと連動する民族対立の可能性が潜在している事実は否定できない。 キリスト教布教は植民地支配の一環として熱心に進められたというのが植民地主義とキリスト教会についての一般的な視点だが、定型的なイメージとは異なり植民地政府はボルネオ全域で布教そのものには不熱心だった。サラワク植民地政府は、マレー系現地住民との軋轢を恐れキリスト教会活動を制限するほどだった。結果として、キリスト教会は非イスラム山地民を対象に布教を行ったが、しかし教会活動に熱心だったのは欧米植民者よりむしろ中国系移民や山地民自身だった。ボルネオのキリスト教化は植民地支配の受容としてではなく、住民自身の外部社会との関係の能動的再構築だったと考えられ、民族集団形成と民族意識の高揚もこうした外部社会関係の再構築の一環だったと結論づけることができた。
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