2013 Fiscal Year Research-status Report
表現の自由と人格権に関する調整法理と比例原則との親和性
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25380030
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
上村 都 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (30374862)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 公法学 / 憲法学 / ドイツ |
Research Abstract |
1.本研究は、ドイツにおける表現の自由と人格権との調整ルールと比例原則との親和性を解明することにより、ドイツの調整ルールのわが国への援用可能性を探るものである。 2.まず、今年度は、調整ルールのうち「相互作用論」に焦点を当てて、ドイツの判例・学説を素材に、その内在的解明をおこなった。なぜ相互に制限しあうという作用が生じるのか、またそれはいかなる根拠によるものかを明らかにすることによって初めて、相互作用論の意義と効果を明らかにしうる。人格権保護すなわち一般的法律が、表現の自由に対する一方的な制限となることが否定されるのは、民主制にとって価値定立的な意義を表現の自由が有しているためであり、自由な民主制においては、あらゆる領域、とりわけ公的生活における表現の自由の原則的な推定が要請されるためである。このことは、表現の自由と人格権のいずれの基本権も他方のために犠牲となることがないよう配慮したものとみることができ、その意味では法益衡量が求めているものと変わりはないこと、法的三極関係における防御権と保護義務との調整とも近似していることが明らかとなった。 3.上述のように、今年度は、相互作用の源流に遡ることによって、法益衡量との近似性を明らかにした。法益衡量は、わが国においても妥当する違憲審査基準であり、法益衡量との近似性は、相互作用のわが国への援用可能性に途を開くものと思われる。相互作用論は、表現の自由と人格権との調整についてさまざまな調整ルールを提供するが、相互作用の背後にある表現の自由の二重の価値はわが国の解釈にとっても整合的であり、他の調整ルールの援用可能性が高まれば、実際の裁判における判断の一貫性、予測可能性、透明性に資することになると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.ドイツにおける表現の自由と人格権との調整ルールと比例原則との親和性の解明が、本研究の目的であるが、今年度は、相互作用論がどのように登場したのかについて、表現の自由の意義・特殊性、人格権の重要性およびその根拠から原理的に検討すること、比例原則の適用場面の考察から、比例原則の射程を明らかにし、その汎用可能性という特殊性から相互作用論との親和性を探ることを、研究の目標とした。 2.上述のように、相互作用論の源流に遡ることによって、法益衡量との親和性を導出し得ること、表現の自由の二重の価値から導かれる相互作用が、わが国の解釈論にとっても整合的であることを明らかにしたことが、今年度の成果であり、おおむね上記目標を達成しつつある。とはいえ、法益衡量と比例原則との相関関係については、いまだ明らかにすることができておらず、また、比例原則の適用場面の考察も不十分であり、今年度の目標を十分に達成したと評価することはできない。比例原則の適用範囲を考察することにより、相互作用論の射程との異同が判明し、ひいてはわが国への援用可能性についてなんらかの示唆を得ることができると予想している。これらの点につき、引き続きさらなる検討が必要と思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.平成26年度は、法益衡量と比例原則との相関関係、比例原則と相互作用論の射程の異同についての考察を行うとともに、比例原則とわが国の人権制約理論との整合性について検討することを計画している。 2.本研究を進めるにあたっては、前者については、比例原則と同義のものとして相互作用論を用いていると学説から評価されているドイツ連邦憲法裁判所の判例や、相互作用という言葉を用いずに法益衡量を要請した判例を精査することにより、法益衡量、比例原則、相互作用論の相関関係を考察することとし、比例原則と相互作用論の射程については、相互作用論から派生されるその他の調整ルールのうち、推定ルールを中心に、具体的事例を踏まえて整理・検討することにしたい。このテーマについては、表現の自由の二重の価値、重要性といった原理的視点から両者の共通項を、事例の特性、人格権のどの保護領域に属するのか、といった個別具体的な視点から射程の相違、作用の仕方の相違を精査し、かつ、たえずこの二つの観点の間で視線を往復させるにより、両者の有機的連関が見出させるものと予想している。 3.併せて、ドイツの憲法学者との意見交換を行うことにより、ドイツ憲法学から見た日本国憲法における表現の自由と人格権との調整という視点からも検討を加え、ドイツの調整ルールの日本法への受け入れ可能性について考察したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3月に購入した物品等の支払いが年度を越えたため。 前年度に使用済みである。
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