2015 Fiscal Year Research-status Report
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25380058
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
今井 直 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (70213212)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 国連人権理事会 / 特別手続 / 市民社会的メカニズム / 国家の協力 / 国連の組織的秩序 / 人権侵害事態への対処 / 人権高等弁務官 / 独立調査委員会 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年も、特別手続は全体として(国別14、テーマ別41)、53ヶ国76回の現地訪問調査、123ヶ国、13の非国家主体に対する計532件の通報送付、458の報道声明・発表を行うなど、国際的なレベルで市民社会の目的やニーズに応じた人権擁護機能を遂行している。 27年度は、市民社会的メカニズムとしての特別手続を、国際人権保障総体の中に正確に位置づけるという総括的な作業の前提として、新たな展開や情報にもとづき、特別手続全般の現状と課題を再検証、整理した。 特別手続の数は2006年の人権理事会創設から10年で25%の増加を見た。しかし、この数字をもって理事会が特別手続へのコミットメントを強化したとは一概には言えない。かなり政治的な思惑をもって国別・テーマ別の特別手続が新設されて来た面もある。テーマ別手続の内容的な重複も少なからずある。また、特別手続担当者の通報送付・調査、報告・勧告に対する国家の協力がシステム上も実行上も特段充実してきたという証拠はない。最近では、特別手続が理事会の財源や人的資源や運営を圧迫しているという批判さえ国連関係者からは聞こえて来る。本研究課題でも、こうした国連の組織的秩序と特別手続の関係を実効性や効率性の観点から分析する必要性を認識させられた。 また、人権侵害事態への対処という点で特別手続と類似の機能を果たしている人権高等弁務官や、理事会決議で設置される独立調査委員会との関係にも注目した。理事会創設以降2015年までに、特定国・地域の人権状況に関して13の独立調査委員会・ミッションや10の人権高等弁務官事務所調査ミッションが理事会決議により設置、委託されている。前身の人権委員会と格段の差のある調査機能の質量双方にわたる強化の背景と意義を再確認するとともに、特別手続を含め人権状況調査に関わる組織の選択や特徴、相互関係等についてより正確な分析が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの研究において、次のような特別手続の基本的性格・特徴・課題を確認できた。①人権理事会創設後も特別手続は諸人権の相互不可分性をふまえた形で質量ともに拡大しており、かつ全体として常態化・統合化されたメカニズムとしての方向性にある。②「市民社会的メカニズム」としての性格づけの中身を、いくつかのテーマ別手続の個別具体的な分析を通じて明らかにすることができた。つまり、各国の市民社会の人権問題に関するニーズに合致した機能を特別手続の実際の活動に見出すことができた。③かかる機能を支えているのは、特別手続にアクセスするNGOや個人であり(とりわけ「人権擁護者」と呼ばれる各国の市民)、特別手続においては、市民は必要不可欠な行動アクターであり、こうした専門家と市民社会との間の密接な連携的関係が手続の発展を担保している。④しかし一方では作今、かかる人権擁護者に対する関係国による人権侵害や制限が重大な問題となっている状況があり、特別手続に限らず、これを国連の人権保障に対する挑戦と受け止め、国連人権機構全体として、人権擁護者を保護するシステムを構築する必要がある。⑤国連(人権理事会)の組織的秩序(財源・人的資源・会議運営等)との調和を図りつつ、特別手続のいっそうの実効性・効率性を追求しなければならない。その際、市民社会的メカニズムとして人権侵害に対する「最後の救済の砦」となっている特別手続の存在理由が損なわれてはならない。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は当該課題の研究の最終年度なので、引き続き、特別手続を国際人権保障総体の中に正確に位置づけるという総括的な作業を試みる。 国際人権保障の歴史的展開における特別手続の意義についてあらためて考察する。国際人権保障は、政治と普遍的価値(人権)、国家と市民社会をめぐる相克の中で展開してきた。とくに、国連人権委員会・人権理事会という政治的機関の場はその相克が鮮明に現出する。そうした状況は現在も変わらないが、力学的関係は少なからず変動する。かかる背景の下で、1960年代後半に端を発した特別手続は、紆余曲折を経ながら現在の形に至っている。その意味するところを筆者なりに総括したい。 また一方で、特別手続が抱える現在の課題も整理、分析する。特別手続の調査の受け入れ、通報への対応、勧告の実施を含む関係国の協力の推進、他の国連人権機関との関係・連携の強化(国連人権高等弁務官、独立調査委員会、総会第3委員会、人権条約機関等)、人権擁護者の保護措置、人権理事会の組織的秩序との調和的発展などについて、特別手続の目的・性格に合致した課題対処のための一定の現実的方向性を見出したい。 こうした作業により、特別手続が国際人権法の実現過程に対して果たしている歴史的かつ現実的役割の実質的な意味が明らかになろう。
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Causes of Carryover |
特別手続の現在の課題を受けた種々の改革提案を調査、分析するため、補助事業期間を延長したため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費・人件費 100,000 旅費 99,161
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